【  母をたずねて三千里  】


贈呈者 おしろい伯爵 さま 2011年7月8日






おしろい伯爵様から

フィオリーナ嬢をいただきました♪


 マルコ、それにお母様たちも、元気でお過ごしでしょうか?

 こちらは相変わらず旅から旅の生活ですが、わたしたちは元気で暮らしています。
父さんったら、時々芸術がどうのこうのと言うくせは変わっていませんが、一所に落ち着く
のはやっぱり苦手みたい。
この前、ジュリエッタが初めて糸あやつりのお人形を使ったの。お客さんたちは、どっちが
お人形だか分からないって、とっても喜んでくれたわ。

 そうそう、前に、コンチエッタ姉さんが結婚したって書いたわね。
もうすぐ姉さんに赤ちゃんが生れるの。フォスコさんたちに『お前さんもとうとう祖父さん
になるのか』って言われて、『おれはまだジイイじゃない!』ってむくれてたけど、周りに
誰もいないと思うと、父さん独りでに顔がニヤニヤしちゃって、なんだかおかしいでしょ?
 それで今日、わたしたちは姉さんたちのいるバイアブランカへ向かうところなのよ。
マルコ、覚えてる? あの草原の道を?

 あ、父さんが、早く出発しようって、呼んでる。 もう行かなくちゃ。
それじゃ、またね。

フィオリーナ

追伸、今度お手紙する時は、写真も送りますね。

 ボーカの町からバイアブランカへ続く、マルコとともに旅した懐かしい街道をペッピーノ
一座の馬車は進みます。
『あんた、あん時の嬢ちゃんかい? あんれまあ、すっかり別嬪さんになったねぇ』道々で
再会するお客さんたちは、今は一座の花形となったフィオリーナを見て口々にそう言います。
マルコが捜し求めた母とともにジェノバへ帰ってから5年余りが過ぎ、フィオリーナももう
16歳になっていました。
 そして今日の宿は、少年と少女が満天の星の下で本当に心を通じ合った、あの思い出深い
破れ屋です。陽も落ち、今夜は父親が食事の用意をしてくれるというので、フィオリーナは
表に出て、土ぼこりにまみれた体をぬぐうことにしました。
冴え冴えとした月の光に浮かび上がる少女が見上げた空には5年前と同じ満天の星が輝き、
マルコとの思い出が昨日の事のように甦ってきます。

『マルコ、どんな男の子になってるかしら・・・
今のわたしを見たら、どう思うかしら・・・
バイアブランカが間近になったあの時、もう二度とマルコとは会えないんじゃないかって、
悲しくて、忘れてほしくなくって、お別れする前にあんなことをしちゃったけど、あの頃は
まだ子供だったわたしも少しは女の子らしくなれたのかな・・・
今のわたしをマルコに見てもらいたい・・・これって変なことじゃないわよね・・・
だって、いつか、マルコが帰ってきたら、姉さんたちみたいに、わたしとマルコは・・・』

「おーい、フィオリーナ、晩飯ができ・・・」
 そう言いかけたペッピーノは思わず言葉を呑んでしまいました。
「おお、すばらしい! フィオリーナ、お前、母さんの若い頃にそっくりだよ。
娘がこんなに成長しているのを知らなかったとは、やはり、わしは父親失格かもしれんなぁ。
よし! これからはお前の衣装をもっと大胆にして、お芝居も大人向きのものを考えよう。
そうすりゃ、大受け間違いなしだ!」

ペッピーノ氏はやっぱり変わらないようですw


                                      otto