【  夕焼けの記憶  】


贈呈者 おしろい伯爵 さま 2003年2月21日






おしろい伯爵様からフィオリーナ嬢をいただきました


バイアブランカへの旅ももうすぐ終わり、次の朝にはフィオリーナとマルコの別れが待っていた
マルコが母をどれほど慕っているかを誰よりも知り、喜んであげなくてはと思っていても
たった一人の友だちとの別れは、フィオリーナを深い悲しみに沈ませていく
それが少女の初恋であった、ということに気づいていたのだろうか

ジェノバでの出会い、別れ、そして再会、でも……

今度離れ離れになったら、もう二度と会えないかもしれない
マルコもいつか、わたしを忘れてしまうかもしれない
 そう思うと少女はやもたてもたまなくなり、マルコに
何か忘れられないものを贈ろうと考える
でも、少女は何も持っていなかった
少年がまだ知らないだろうもの
少女がただ一つ持っている
ものを除いて……


忘れないでね……
初めて『わたし』を見たのは、マルコだったことを……
そして忘れない……
『わたし』を見てほしいと思ったのはマルコ、あなただったから……



少年はずっと後になって、フィオリーナの涙を思い出すのだろうか

ジェノバの港を見下ろす高台には人影もなく、静かな佇まいをみせている
晩秋の暮れなずむ夕陽が海も空も茜に染め、懐かしい草原の風景を思い出させる


マルコ……忘れないで……

フィオリーナ……
僕を呼んだのは君かい?……
覚えているよ、フィオリーナ、あの時の君を……

記憶の中でセピアだった色がよみがえる

                                                  otto