第4話【お母さんの手紙】 ある朝、ファンティーヌから手紙がワーテルロー亭に届きましたが、テナルディエは中の 養育費だけを取ると手紙を読みもせず、かまどへ投げ捨ててしまいました。 たとえまだ字が読めなくても、母の書いた手紙を見るだけでも慰めになるほど母の匂いに 餓えていたコゼットはそれが燃えてしまわぬ内にかまどから拾おうとしますが、女将に邪魔 されてしまい、その間に薪の炎が手紙を焦がし始めます。 学校からの帰り道、エポニーヌがほのかな恋心を抱いているクラスメートの少年トロンと 別れて家まで来ると、宿の前を掃除していたコゼットを見て、それまでにこやかだったエポ ニーヌは不機嫌になり、いつものようにコゼットに意地悪をします。 そんな事はもう慣れてしまったとはいえ、宿の脇にまだそのまま置いてある、初めてここに 来た時にエポニーヌたちと一緒に乗って仲良く遊んだブランコを見て、コゼットは寂しさを 隠せませんでした。 掃除を終えて台所に入ってきたコゼットは、学校でやった書き取りの紙を見せて自慢する エポニーヌが女将の前で字の練習をしているところを見て、自分も字を習えれば母の手紙が 読めるのにと思いますが、女将がそんな事をさせてくるはずもありません。 ある日、エポニーヌの忘れ物を届けに学校へ使いに行かされたコゼットが外から覗くと、 教室では書取りの授業中でした。窓の外に見知らぬ少女がいる事に気づいたトロンが微笑み かけると、学校にも行かず村でも自由に遊ぶ事もできないせいで、同年輩の男の子と身近に 接した事の無いコゼットは思わずはにかんでしまいましたが、授業が終わってトロンが窓を 開けてくれたおかげで、やっとエポニーヌに忘れ物を渡す事ができました。 でも、せっかく届けたのにエポニーヌは迷惑げで、トロンが気安くコゼットへ声をかける のが気にくわないようでした。 帰り道、ガヴローシュと一緒にさっき学校で見た単語を熱心に練習しながら歩いていると 偶然、村の教会に赴任してきたばかりのリシャール神父と道でぶつかってしまいました。 コゼットが字を習いたがっているのを知った神父様は小枝で地面にCosetteと書き、少女の 名の綴りを教えてくれました。神父様とお話している内にいつのまにか時が過ぎてしまい、 コゼット達がワーテルロー亭に帰る頃には陽はもうすっかり落ちかけていました。 ようやく帰ってきたコゼット達に、どこで道草を食ってたんだい、と怒鳴りつけようした 女将でしたが、二人を送ってきた神父様を見て養い子を虐待していると見られるのはまずい と思い、帰りの遅いコゼットを心配していたと、夫婦揃ってあたふたと誤魔化して追い出す ように彼を帰そうとします。 帰り際、ワーテルロー亭の夫婦が親切にも身寄りの無い子供を育てていると、村で評判に なっていますよと言って、神父様はコゼットが叱られないように心遣いするのを忘れません でした。でも彼が居なくなったとたん、やはり女将達はコゼットに迷惑をかけられたと責め、 それをいい口実に、楽に儲けようとして人に預けた金を持ち逃げされ、損をした亭主はその 穴埋めに養育費の値上げを言い出します。 それを聞いて、自分のせいで母親を困らせてしまう思い、今にも涙ぐみそうな顔を見られ たくなかったコゼットがうなだれて女将達から顔を背けると、丁度その先のかまどの中に、 今朝そこに捨てられてしまった母からの手紙がまだ燃え残っているのを見つけました。 急いでかまどに近づいたコゼットはその手紙を隠すように手に取り、薪を足すと言って外に 出ます。そのついでだといって女将から薪運びを言い付けられたコゼットは粗末な夕食さえ 抜かれて空腹に力も入らず、半分運んだ頃には、辺りはもう真っ暗になっていました。 もうへとへとになったコゼットに、気を利かせたガヴローシュは女将が部屋にひきあげた 頃合を見計らってパンを持ってきてくれました。 それを食べてやっと人心地のついたコゼットが手紙の燃えさしを大事そうに広げてみると、 そこには何度もCosetteと、今日覚えたばかりの自分の名が綴られているのが見えます。 それを見て母が自分の事を思っているのを知り、体は疲れきってはいてもコゼットは満天の 星の中で幸せな気持ちになるのでした。 一方、モントルイユ・シュル・メールでは、工場で給金を受取ったファンティーヌは女工 仲間のダリアから、給料日ぐらいは美味しいものを食べましょうよ、と食事に誘われますが、 彼女はそれを断ってしまいます。 女工たちは仲間付き合いをしないファンティーヌの態度に、彼女には人に言えない秘密でも あるのではないか、と次第に不審の目を向けていくのでした。 そんな事とは知らず、ファンティーヌは給金のほとんどをそのまま銀行に預け、このまま いけばコゼットが次の誕生日を迎える頃には一緒に暮せる見込みもついて、喜んでいました。 赴任以来、ジャヴェールは町の治安を守る為、厳しすぎるほど任務に精励していましたが、 時折見掛けるマドレーヌの顔を見るにつけ、彼がジャン・ヴァルジャンにそっくりだという 疑念を払う事ができませんでした。しかし、体制を擁護すべき彼の立場もあって、この時は まだ市長を正面きって疑う事にはためらいを持っていました。 そんな時期、ジャヴェールの疑いを深める、ある事件が…… |