第3話【新しい友だちシュシュ】

 エポニーヌがお洒落な服で学校へ出かける頃、すでに馬小屋の掃除をしていたコゼットに
女将はさらに仕事を言い付け、そのうえ子供相手になら邪険に断れないだろうという魂胆で
ツケの溜まった酒屋の支払いを待ってくれるように少女を差し向ける始末です。
 使いに出されたコゼットと付いてきたガヴローシュは必死に頼み込み、業突く張りと噂の
酒屋の婆さんも断られれば小さな少女が食事を抜かれると聞いてさすがに不憫に思ったのか
ツケの支払いを延ばしてくれるのでした。

 帰り道に寄った花の咲き乱れる丘で二人はガヴローシュがコゼットの為に家からかすめて
きた一切れのパンを分け合い、ひと時の安息にひたります。
その時、ガヴローシュが見つけてきた白いむく毛の仔犬をコゼットはシュシュと名付けます。
母と離れ離れに暮す悲しみを忘れて、仔犬と一緒に戯れるコゼットの姿は、この時ばかりは
6歳の子供らしい楽しげなものでしたが、しかし、コゼットにいつまでもそうしている事は
許されません。

 シュシュにお別れを言って帰ろうとした二人ですが、親とはぐれたのか飼主に捨てられて
しまったのか、その仔犬は二人にまとわり付いて後についてきてしまいます。
 仔犬を飼うなんてテナルディエ夫婦はきっと承知してくれないとは分かっていても、つい
可哀想になって、妙に鼻のきく女将を誤魔化し、なんとかシュシュを馬小屋に隠しました。
 その夜、シュシュが鳴声を上げて女将たちに気づかれないように、馬小屋の敷き藁の上で
仔犬と添い寝をするコゼットは自分の幼い頃に柔らかいベッドの傍らで感じた母の温もりを
思い出しながら眠りに落ちていきました。

 しかし、翌朝、とんでもない騒動が起きてしまいました。
朝早く客室用のシーツが何者かに床に落とされて汚され引き千切られているのを見つけて、
女将が騒ぎ出すと早速犯人探しが始まったのですが、シーツに小さな足跡を見たコゼットは
それが昨日連れて帰ったシュシュのものではないかと気づきました。
 お願い、どこかに隠れていて! と少女は願ったのですが、ついにシュシュは見つかって
しまいます。ガヴローシュが部屋に連れてきた仔犬がそこを抜け出し、シーツを遊び道具に
したようでした。

 宿屋の商売道具を駄目にされてカンカンに怒った女将がシュシュに掴みかかろうとすると、
自らも孤児同然のコゼットには身寄りの無い仔犬を見捨てる事ができず、とっさにその前に
身を投げ出して許しを乞いました。
 しかし怒りの治まらない女将は邪魔をされてますます癇癪を爆発させて、娘たちが怯える
ほど激しく少女をほうきで打ち据え続けます。
やがて、失神してもなおその身で仔犬を庇うコゼットに折檻するのにも疲れ、コゼットには
まだまだ働いてもらわなけりゃならないから、その辺にしとけ、と亭主からも止められて、
女将は、勝手におし! とシュシュをここに置く事を黙認するのでした。

 そんな事があったのも知らず、ファンティーヌはもうすぐ7歳になる娘の幸せを信じて、
ワーテルロー亭宛に手紙を書きながら、また母娘一緒に暮せる日をモントルイユ・シュル・
メールの町で心待ちにしていました。

 その町では警察署長に就任したジャヴェール警部がマドレーヌの許に着任の挨拶に現れ、
彼の前の任地であったトゥーロン徒刑場で見かけた囚人ジャン・ヴァルジャンに市長がよく
似ていると冗談めかして言いますが、その目は決して笑ってはいませんでした。
 マドレーヌはその場をそつなくやり過しましたが、ジャン・ヴァルジャンの過去を知って
いる人物か自分のすぐ傍に迫ってきた事実は彼の胸中に不安を広げていきます。

 アランが帰宅途中に夕食の買物をしていてバッタリと出会ったシスター・サンプリスから
おすそ分けに貰ったクッキーを弟妹が嬉しそうに食べるのを見て、小さいけれど満ち足りた
幸せを感じていた一方、マドレーヌは街中で、今では落ちぶれて酒代にも事欠く酔っ払いの
フォーシュルヴァンと出会い、新参者の自分が事業に成功して町の市長にまでなったせいで
老人から妬まれているのを知り、さらに暗鬱な気持ちになって帰宅していくのでした。