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「すっかり雨に濡れてしまったね、コゼット、寒くないかい?」
「ううん、だいじょうぶよ、おじさん、だって、テナルディエさんの
とこでは、もっとひどい雨の日にだってお使いに行ったりしてたもの
このくらいへいき……クシュン!」
「ほら、濡れたままじゃいけない、服を脱いで焚き火にあたりなさい」
「わかったわ、おじさん、そうするわ」

 少女が着替え易いように、ャン・ヴァルジャンは少女に背を向けて
焚き火に薪をくべていました。
 やがて、少女の軽い足音が近づいてきます。

「うわー、あったかーい」
「さあ、よくお温まり、コゼッ……!?」

 横にちょこんと座っているコゼットに顔を向けた彼の目に映ったのは
一糸も纏わぬ少女の姿でした。
透き通るように白い幼い肢体を見た彼は見てはいけないものを見て、
それに魅せられてしまった人のように言葉を失いました。

「おじさん? どうしたの? お顔、真っ赤よ?」
「えっ!? い、いや…なんでも……そう、なんでもないんだよ……
服、全部脱いでしまったんだね?」
「うん、だって、おじさんがそうしろって……いけなかったの?
ワーテルロー亭にいた時も、わたし、着物が一つしかなかったから、
服を洗った夜は、いつもはだかでワラにくるまってたの」

「そ、そうだったのか、さあ、コゼット、そ、そんな格好じゃ風邪を
ひいてしまう、いい子だから、早くこれを着なさい」
 カバンから替えの下着を出した彼は少女を見ないようにしながら
それをコゼットに手渡しました。

「ねえ、おじさん、この下着もはかなきゃいけない?」
「それは……みんな、穿いてるだろう?」
「ううん、わたし、今まではいたことなかったの
テナルディエさんが、ネンネには、まだいらないっていって
ねえ、おじさん、ネンネって、こどもってことなんでしょう?
でも、エポニーヌもわたしより小さいアゼルマだって持ってたの、
だから、あずけられたこどもは持っちゃいけないのかと思ってた
お母さんと一緒に暮すようになったら、もらえるのかなって……」
「そう……そうなのかもしれないね……」
 そう言うと黙り込んでしまい、後ろを向いたまま決して少女の方を
見ないジャン・ヴァルジャンをコゼットは不思議に思うのでした。

 立ったままで下着を穿くのに慣れていないコゼットは藁の上に腰を
下ろすと、両足に下着を通して引き上げていきました。肌着を首から
被ったコゼットは下着の様子を確かめて、これなら大丈夫かなと思い
ジャン・ヴァルジャンに聞きます。
「おじさん、これでいい?」
「あ、ああ、それでいい、さあ、パンに焼いたチーズを乗せて夕食に
しよう、こっちにおいで、コゼット」
「はい、おじさん」

 嬉しそうに傍に寄る少女を見る彼の瞳の色が少し揺れていたのは
踊る焚き火の光のせいだったのでしょうか。
ジャン・ヴァルジャンはコゼットをこれからもずっと守って行こうと
心に誓うのでした。
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