【 『アン』思春の朝 】
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贈呈者 |
DAIDAI【橙】
さま |
2012年8月29日 |
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DAIDAI【橙】様から
アン・シャーリー嬢をいただきました♪
・・・流行り病で両親を相次いで失い、生まれてすぐに天涯孤独の身の上となったアンは、
初めはトーマス家に、次にハモンド家に引き取られましたが、両家とも貧しく、幼いアンは
子守りや家事にこき使われ、しかも、それぞれの家で主人が亡くなる不幸が重なり、ついに
居場所の無くなったアンは孤児院に預けられてしまいます。
そんな幸薄かった少女にもとうとう転機が訪れ、自分を養子に貰いたい人がいると聞いた
アンは、今度こそ自分にも家族ができると小さな胸を喜びに震わせます。
こうしてカスバート兄妹の住むプリンスエドワード島のグリーンゲイブルズに着いたアンは、
そこで、兄妹が実は男の子を欲しがっていたのに、何かの間違いで自分がよこされたことを
知り、妹のマリラから孤児院へ帰すと言われて、絶望の淵に突き落とされます。
しかし、女性が苦手なはずの兄のマシュウが、何故か、ちょっと風変わりだけれど想像力
豊かでおしゃべり好きなこの少女のことを気に入り、おかげでアンはグリーンゲイブルズに
置いてもらえることになったのでした・・・
翌朝、気の早い雄鶏の時の声に目を覚ましたアンが窓を開けると、空はまだ濃い群青色に
包まれていましたが、ひと目見て大好きになったこのグリーンゲイブルズにずっと居られる
ことになった喜びに目が冴え、もう一度眠る気にはなれませんでした。そして、アンは服に
着替えようとして、マリラの用意してくれた、清潔だけれどノリが利きすぎてゴワゴワした
寝間着を脱ぎ捨てます。
その時、部屋に甘い匂いが漂ってきて、それに気付いたアンが窓の外を見ると、ようやく
顔を覗かせた太陽から射す最初の光が窓辺に枝を差し伸べる古木に咲く一群れの花に当たり、
輝いていました。
『なんてきれい花なの・・・あなたは・・・そう、雪の女王ね・・・
まるで、家来の妖精たちが、女王の宮殿のシャンデリアに灯を点しているようだわ・・・』
それは、昔、トーマス家にあった食器戸棚にケイティ・モーリスという女の子が住んでいて、
魔法の呪文を唱えると自分もそこに入って行けると空想した、美しい世界を見ているようで、
感動したアンはしばし言葉も忘れ、見とれていました。
そんな中、アンの空想の友だちだった、ケイティやヴィオレッタとお別れした時の、胸が
張り裂けそうな悲しみが一瞬心をよぎり、少女の瞳からひとしずくの涙がこぼれます。
けれど、少女自身はそれに気付いていたのかどうか、涙はそれ以上頬を濡らすことなく乾き、
やがてアンは、これからのアボンリーでの生活に思いを馳せていきました。
『ここにはわたしと友だちに、心の友になってくれる子がいるかしら?
ううん、男の子はだめ、だって、男の子なんて、わたしの赤毛のことをからかうに決まって
るんだもの・・・
友だちになるならやっぱり女の子ね・・・だけど、どんな女の子がいいかしら?・・・
そうね・・・
その女の子は、わたしみたいなやせっぽちじゃなくて、もっとふっくらとしてるの・・・
髪は、もちろん赤毛じゃなくて・・・そう、神秘的な黒がいいわね・・・
そして、その子は、わたしのおしゃべりを喜んで聞いてくれて・・・
出会った二人は、いっぺんでお互いが好きになって、永遠の友情を誓うの・・・』
これまでのアンの辛い日々を慰めてくれたのは、父親譲りの豊かな想像力だけでした。
しかし、今、グリーンゲイブルズのアンとなった少女は、たとえ実の親ではないにしても、
自分に愛を注いでくれる身近な大人の存在を肌で感じ、心の平安を得て、生まれて初めて、
未来に夢や希望を抱くことができるようになったのです。
それは、固い殻の中で身を縮こまらせて厳しい冬にじっと耐えていた、若木に付いた小さな
蕾が、春の気配を感じて膨らみ、色づいていくように、アンの心と体をゆっくりと、けれど
着実に成長させるものでした。
アンはこれから色々な経験や失敗を繰り返し、時には喜びに心を躍らせ、時には悲しみに
打ちひしがれながら、多感な思春期を過ごしていきます。
大人から見れば、小さな女の子だったアンがいつの間にか若い娘となるまであっという間の
出来事かもしれません。しかしアンにとって、いつまでも終わらない夢のような少女時代が
この日の朝、幕を開けたのでした。
otto |
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