【  家なき子レミ  】


贈呈者 おしろい伯爵 さま 2011年10月7日






おしろい伯爵様から

レミ・バルブラン嬢をいただきました♪


・・・今から150年ほど昔のフランス中央高地、その片田舎にあるシャバノン村に明るく
歌の上手な少女レミは優しい母親アンヌや妹ナナと貧しいながらも幸せに暮らしていました。
しかし、少女が10歳の誕生日を迎えた初夏のとある日、出稼ぎ先で大怪我を負って帰って
きた父親のジェロームから、レミは自分が捨て子だった事を知らされます。
そして、怪我が元で働けなくなっていたジェロームは、レミを人買いに20フランで売って
しまったのです。
人買いに買われた少女を待ち受ける運命がどんなものであるか、それは火を見るより明らか
だったでしょう。そんな少女を見かねて助けてくれたのが、村に居合わせた動物旅芸一座の
座長、ヴィタリスでした。
ヴィタリスから一緒に行かないかと誘われて、レミは迷いましたが、このまま村に残っても
母親を不幸にするだけだと悟り、少女は懐かしい故郷を後にしたのでした。

 それからの町から町へと果てしなく続く旅路は決して楽なものではありませんでしたが、
ヴィタリスは字の読めなかった少女に文字を教えてくれ、厳しさの中に見せる仲間を気遣う
彼の優しさや、他人から旅芸人風情と軽んじられても決して信念を曲げない心の強さを知り、
レミは、養父が帰ってくる前に抱いていた父親のイメージをヴィタリスの中に重ね合わせて
心から彼を慕うようになっていきました。
しかし、そんなレミの小さな幸せも長くは続かず、ある事件に巻き込まれたのがきっかけで
健康を害していたヴィタリスはパリを目前にして、雪の降りしきる中、とうとう帰らぬ人と
なってしまいます。

『パリのガースパール老人を訪ねなさい』と言ったヴィタリスの最後の言葉に従い、レミは
悲しみに暮れる間もなく、残された仲間のカピ、ジョリクールとともにパリに向い、老人が
住むというルールシーヌ通りを見つけますが、そこは酔っぱらいや娼婦のたむろする貧民街
でした。しかもヴィタリスが頼ろうとしたガスパール老人はすでに亡くなり、そこで待って
いたのはその甥で、孤児たちを無理やり働かせ、1日20スーを稼いでこなければ、食事を
抜くばかりか、たとえ相手が小さな子供でも容赦なく鞭を打つひどい男でした。
 少女はこんなところにいるべきかどうか悩みながらも、ヴィタリスの言い付けを守ろうと、
ここに留まることにします。そして、弱い者を助けようとしていたヴィタリスの生き方その
ままに、自らが鞭打たれるのも構わず身を投げ出して幼い子を庇う日も何度かありました。
 そんな、他の子供たちのように自分のことを恐れずどんなに鞭打ってもくじけない少女に
いらいらを募らせていたガスパールの頭に、ある悪知恵が浮かびます・・・



「おい、マリア、お前え、今日の稼ぎはどうした!」
「ご、ごめんなさい、親方、今日はあんまりお花が売れなくて、これだけしか・・・」
「なんだ! たった10スーっきゃ、ねえじゃねえか!
サボりやがって、思いっきり鞭をくれてやる、覚悟はできてるんだろうなッ!!」
「ヒッ! お願い、む、鞭だけは、許して」
「ホオー、鞭は嫌か・・・なるほどな・・・分かった、マリア、今夜は、鞭は止めてやる」
「ほ、本当に?」
「ああ、本当だとも・・・だがな、1日20スーの約束を守れなかった奴に何のお仕置きも
無しじゃあ、シメシがつかねえだろう?」
「え?」
「なあ、マリア、はした金にしきゃなんねえ花売りなんざ、もうやめて、そろそろお前えも
別のもん、売らねえか?」
「別の?」
「なあに、大して難しいことじぇねえし、花を仕入れる元手もいらねえ結構な商売さ
それはな・・・お前え自身の花を売ることだよ」
「あたしの?・・・アッ! そ、そんなっ!」
「分かったようだな? 
なら、お前えの花が売れそうかどうか、確かめついでだ、鞭の代わりに、今夜のお仕置きは、
俺様の前で素っ裸になってもらうことにしようか」
「イ、イヤァァァッ!!」
「フッフッフ、なんなら、俺様が手を貸してやろうか?」
「イ、イヤ、許して、来ないでぇ!」
「待って、親方、そんなのひどすぎる、マリアが可哀想だわ!」
「レミ、お前えは引っ込んでろ! どうせお前えにゃ、俺様がマリアに何をさせようとして
いるかなんざ、よく分からねえだろうが」
「ええ、分からないわ、でも、マリア、こんなに震えてるじゃない!」
「ホホオ〜、お前え、そんなにこいつを庇いたいのか?
だったら・・・レミ、お前えが代わりになるって言うんなら、許してやってもいいんだぜ」
「そ、それは・・・」
「できねえってんなら、そこでマリアが泣きながらひん剥かれるのを黙って見てるんだな」
「・・・ま、待って・・・」
「どうした? その気になったんなら、さっさとしねえか! さもねえと・・・」
「分かったわ・・・
・・・・・・・・・こ、これで、いいのね」
「バカヤロウ、前を隠すんじゃねぇ、俺様にお前えの裸をよ〜く見せるんだ・・・・・・
チッ、もうすぐ11歳だってぇから少しは期待してたってのに、まだ下の毛も生えてねえぜ
こんな貧弱な身体じゃ、客のナニも萎えちまわぁ
おかげで、せっかくの酒も不味くなっちまったぜ
いいか、レミ、これに懲りて、今後一切、俺様のやり方に口出しするんじゃねえ
逆らったらまた同じ目に遭わせてやるから、その格好のまま、一晩、よーく考えるこったな
お前えたち、朝までレミの縄を解いたりしたら承知しねえぞ」

 ガスパールは自分の部屋に戻ると、目論見どおりレミに赤っ恥をかかせてやったと思い、
今夜のことでレミとこの家の子供たちの絆が一層固くなったとも知らず、ご満悦の体で酒を
しこたま飲み、そのまま翌日の昼まで高いびきをかいていました。

「だ、誰?」
「俺だよ」
「マ、マチア? お願い、見ないで」
「大丈夫、もう月も沈んでここは真っ暗だから、何も見えやしないさ」
「で、でも・・・アッ、マ、マチア、何を?」
「ガスパールのやろう、レミをこんな格好のままテーブルの脚に括り付けるなんて、ひでえ
ことをしやがる
春っていっても夜はまだ寒い、このままじゃレミが風をひいちまうと思ったんだ
いやなら持って帰る」
「ううん、ありがとう、マチアの上着、あったかい・・・」
「・・・ありがと、な」
「え?」
「あ、いや、マリアがありがとうって言ってた、それにみんなも」
「ううん、ヴィタリスさんなら、きっとこうしただろうって、そう思っただけなの」
「そのヴィタリスって人、優しかったんだな」
「ええ、とっても」
「寂しい、かい?」
「うん・・・でも、カピとジョリクールがいるし、それに今はここのみんなが仲間だもの」
「仲間、か・・・レミ、お前は強いんだな」
「ううん、そんなことない、わたしは泣き虫だって、ヴィタリスさんに何度も言われたわ
そんな時、ヴィタリスさんは、後ろを振り返っても何も無いのだから、明日を見つめて前へ
進め、って言ってくれた・・・わたしはそれを信じているの」
「前へ進め、か・・・」
「うう・・・」
「どうしたレミ、どこか苦しいのか!?」
「ううん、マチアがあんまり優しいから、わたし、泣き虫に戻っちゃったみたい・・・
マチア、少しの間だけ、肩をかしてくれる?」
「あ、ああ」
「ありが、とう、マチ、ア・・・」

 これまで、同じ孤児でも自分たちとはどこか違う匂いのするレミを避けていたマチアは、
それが少女に惹かれていることの裏返しだということにまだ気付いてはいませんでした。
しかし、自分の肩にもたれて安心したように眠っているレミの安らかな寝息を聞きながら、
マチアは、ひどい大人たちに負けないでこの少女を守っていける強さを身に付けたいという
思いを確かに感じ始めていたのです。



                                      otto