【 ロミオの青い空 】
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贈呈者 |
おしろい伯爵
さま |
2011年9月2日 |
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おしろい伯爵様から
アンジェレッタ・モントバーニ嬢をいただきました♪
・・・イタリアとの国境にほど近いスイスの小さな村、ソノーニョで貧しいながらも幸せに
暮らしていたロミオは、村にやってきた人買い、ルイニの悪巧みによって父親が怪我をして
しまい、その手術代を工面するために自らの身を人買いに預け、故郷に別れを告げます。
そうしてイタリアのミラノに着いた早々、煙突掃除夫として売られたロミオの仕事は過酷で、
仕事が終わってからも牢獄のような部屋に閉じ込められた上、根は人のいい親方のロッシは
別にしても、そのおかみや息子のアンゼルモに苛められ、つらい日々が続きますが、そんな
中で、病弱でほとんど部屋から出られない娘のアンジェレッタだけが陰ながらやさしくして
くれるのが唯一の慰めでした。
やがて、ある事件がきっかけとなって親方の信頼を得、アンジェレッタとも自由に会える
ようになったロミオは、大好きな少女と接する内にその出生の秘密を知ることとなります。
アンジェレッタはロッシの実の娘ではなく、名門モントバーニ伯爵家の今は亡き一人息子、
アドルフォの忘れ形見だったのです。しかし、身分違いの結婚から生れたアンジェレッタを
孫と認めなかった祖母である伯爵夫人イザベラは、まだ赤子だった少女を秘密裏にロッシへ
託したのでした。そして、ロッシたちの言葉の端々からその事を察していた少女は、次第に
病気が重くなってきて余命があまり残されていないのを悟り、たとえ一目でもおばあさまに
逢いたいと願います。
ロミオは少女のたった一つの望みを叶えようと、街の不良たちからの迫害から自分たちを
守るため煙突掃除の少年たちが集まり、ミラノへ来る途中に出会い永遠の友情を誓った親友
アルフレドをリーダーに結成した『黒い兄弟』の仲間たちと共にアンジェレッタを伯爵邸へ
連れて行きますが、氷の伯爵夫人の異名を持つイザベラは冷たく拒絶し、その帰り、少女は
おばあさまに逢えただけで幸せだと言うと倒れて、そのまま昏睡状態になってしまいます。
おばあさまに愛してもらいたい、アンジェレッタの本当のお想いが分かるロミオたちは、
一生懸命にイザベラへ訴え、そんな、相手を思いやるロミオと少女の絆、それを助ける仲間
たちの友情に、頑なだった伯爵夫人の心にも温かい光が届きます。
そしてアンジェレッタの許に向かったイザベルが手を取ると、それを待ち望んでいたかの
ように少女は目覚め、アンジェレッタとおばあさまは抱き合うのでした。・・・
明日はいよいよアンジェレッタが病気の治療のためにパリへ旅立つ日です。
その夜、ロミオはアンジェレッタ少女の部屋を訪れました。
「ごめんなさい、ロミオ、こんな遅くに来てほしいだなんて言って」
「かまわないさ、これまでだって、僕たち、こうしてたじゃないか」
「そうね・・・二人でよくお話したわね・・・
でも、それももう今夜が最後・・・だって、明日はお別れなんですもの・・・
わたし忘れない。忘れないわ、ロミオのこと。
ロミオがわたしの心に見せてくれた、青い空を・・・だから、わたしも・・・
ねえ、お願い、ロミオ、少しだけ、目をつぶっててくれる?」
「うん、わかったよ、アンジェレッタ・・・こうかい?」
「ええ・・・・・・
ロミオ・・・もう、いいわ」
「うん・・・
アッ、アンジェレッタ!? ゴ、ゴメン、僕」
少年が瞼を開くと、そこには、恥しさに顔を少し強ばらせながら、寝間着を滑り落として
一糸まとわぬ姿となった少女が銀色にけぶる月影の中に浮かび上がっていました。
「だめ、目を逸らさないで・・・
パリに行ってもわたしの病気、治るとは限らないわ・・・」
「そんなことない、カセラ先生だって、きっと良くなるって」
「そうかもしれない・・・でも、もう二度とロミオに逢えないかもしれない・・・
だから、わたしを見て、ロミオだけのわたしを、ずっと覚えていてほしいの」
「アンジェレッタ・・・
とっても、きれいだよ・・・
僕、君のこと、絶対忘れたりなんかしない、約束するよ」
「約束よ、ロミオ・・・
ねえ、ロミオ、お別れの前にもう一つだけ、わがままを言ってもいい?」
「ああ、もちろん、僕にできることなら、なんでもする」
「パリに行って、お医者様の治療を受けるのは、おばあさまと一緒でも、やっぱりちょっと
怖いの・・・だから、わたしにロミオの勇気を分けてくれる?」
「勇気?・・・でもどうすれば?」
「わたしを抱きしめてくれるだけで、それだけで、わたし、きっと勇気が出せると思う」
「わかった、君を抱きしめてあげればいいんだね?」
「ううん・・・ロミオも服を脱いで、そうして・・・」
「エッ? で、でも・・・・・・」
「んッ」
「アンジェレッタ? どうしたの? どこか具合が悪いんじゃ?」
「いいえ・・・でも、もう秋だもの、少し寒い・・・ロミオ、わたし温めてくれる?」
「わかった・・・ピッコロ、ちょっと、どいてておくれ・・・」
ロミオははにかみながらアンジェレッタと同じ姿になり、この時ばかりは、病弱な少女の
頬にも朱が差していきます。
「アンジェレッタ、さあ、僕に笑顔をみせて」
「あ・・・ごめんなさい。ロミオ、これでいい?
ロミオ・・・」
招くように手を差し伸べたアンジェレッタがロミオの手を引きながらゆっくり後ずさり、
ベッドに横たわると、ロミオは重みをかけぬようその上に四つんばいになり、少年と少女は
言葉もなく見つめ合います。
「ロミオ・・・」
「うん・・・」
ロミオは少女を気遣い、そっとアンジェレッタに身を重ねていきます。ソノーニョ村しか
知らなかった頃、まるで子犬同士のようにじゃれ合った幼馴染みのアニタからはお日さまの
匂いがしたのをロミオは覚えていましたが、いま身体を合わせている少女の匂いは少年には
とても甘く感じられました。
「ああ、温かい・・・ロミオの温かさを感じる・・・」
「アンジェレッタ、君はなんていい匂いがするんだろう・・・」
「ロミオの心臓の音が伝わってくるわ・・・」
「僕も、アンジェレッタの胸がトクン、トクンっていってるのが聞こえる・・・
アンジェレッタ、重くない?」
「大丈夫・・・もっとぎゅっとして、ロミオの勇気をわたしにちょうだい・・・」
ただ肌を重ねただけだったその夜の出来事は、けれど二人にとって終生忘れえぬ思い出と
なったのでした。
otto |
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