【  ペリーヌ物語  】


贈呈者 おしろい伯爵 さま 2011年8月5日






おしろい伯爵様から

ペリーヌ・パンダボアヌ嬢をいただきました♪


・・・祖父のビルフランを頼り、遠くインドから海を渡り、ギリシャから陸路フランスへと
長い長い旅路を辿るペリーヌたちでしたが、旅の途中、ボスニアで父エドモンが、そして、
母マリもパリで亡くなってしまいます。
 一人ぼっちになってしまったペリーヌは、それでも亡き父母の言い付けを守り、苦労の末
ようやく祖父のいるマロクールまで辿り着きましたが、そこで垣間見た祖父の横顔はとても
厳しく、今わの際に母が話してくれた、ビルフランとその息子エドモンの仲たがいと、その
原因となった父母の結婚、それに祖父は今も母を憎んでいるだろうという話が少女の脳裏を
よぎります。
 そして、祖父が父母の結婚を快く思っていないのならば、今、自分が孫だと名乗り出ても
それを決して歓迎してくれないだろうと思ったペリーヌは、『人に愛されるにはまず自分が
人を愛さなければ』という母の最期の言葉を胸に、いつか祖父が心から自分を愛してくれる
ようになる日が来るのを信じて、オーレリィと名を変えパンダボアヌ工場の女工となります。

 しかし、働くにも住む場所はやはり必要です。けれども、無一文も同然だったペリーヌに
借りられたのは女工たちが暮らす不潔な大部屋の安下宿しかなく、その息苦しさに寝付かれ
なかった少女は、下宿を抜け出して散歩をしている途中、林に囲まれた池の畔の小島に建つ
小屋を見つけます。それは、冬に鳥撃ちに使う粗末な狩猟小屋で、人が住むようにはできて
いませんでしたが、工夫すれば自分の力で暮らしていけそうですし、なにより犬のバロンが
いても下宿人の女工たちに気がねする必要もないでしょう。そう思うとすっかりここが気に
入ったペリーヌは、この小屋に住むことします。
 こうして、幸せを、おじいさまの愛を願う少女の新たな生活、新たな旅が、また始まった
のでした・・・


 陽も暮れて静まり返った池のほとり、その静寂を破るのは、微かに聞こえる水の音だけ。
夏の陽射しに火照った身体には水の冷たさが心地よく、トロッコ押しの仕事で埃にまみれた
髪をくしけずり、身体を清めたペリーヌは、まるで生き返ったような気がします。
旅の途中ではしばしば身をぬぐう水にも事欠きがちだったのに、この池を独り占めしている
自分がとても幸せに思えました。

「ねえ、バロン、何をそんなに見ているの?」
「ワンッ」
「ああ、お月様が昇ったのね? まあ、本当にきれいなお月様・・・
でもね、バロン、あなたはわたしの護衛隊長なんだから、よそ見をしてないで、周りに誰も
いないか、ちゃんと見張っててね」

 とは言ってもここに来るのは、友達のロザリーかその弟のポールぐらい、その二人も夜も
更けたこんな時間にはもう来ません。あとは少女の一人暮らしを心配して様子を見がてら、
本を持ってきてくれるファブリさんだけでした。
『ファブリさん、今夜も来てくれるかしら・・・』そう思うと、陽射しを受けた火照りとは
違う温かさが少女の身体の奥から湧き出てきます。
 少女は自分に優しくしてくれるファブリのことを慕い、もし自分に歳の離れた兄がいたら
きっとこんな風だったかもしれないと思っていましたが、それが兄に対する思慕とは異なる
ものであることに少女自身、まだ気付いていませんでした。

 それは、パリからマロクールへ向う旅でのこと、路銀も尽き、飲まず食わずで歩き続けた
ペリーヌはとうとう倒れてしまいます。けれど、少女が倒れたのは空腹と乾きのせいばかり
ではなく、初潮を迎えて体調を崩したせいもあったのです。下腹がズキズキと痛み、初めて
経験する出血がいつまでも止まらず、少女は一人ぼっちの心細さに『自分はこのまま死んで
しまうのではないか』という絶望に駆られて、せめて人目につかない場所で死のうと最後の
力をふりしぼり、林の奥へ分け入ったのでした。
 幸い、バロンの活躍もあり、ペリーヌは近くを通りかかった、パリでロバのパリカールを
買ってくれたルクリ小母さんに助けられます。
『なあに、心配なんかいらないさ。そんなもん、女なら誰でも月に一度、経験するこった。
もっともあたしはとっくに卒業しちまってるがね。とにかく、お前さんはもう立派に子供を
産める大人の女になったんだよ。亡くなったおっ母さんに代わって、おめでとうと言わせて
もらうよ、ペリーヌ』

 あれから一月半あまりが過ぎ、ルクリ小母さんに教えてもらったお手当てで二度目の時も
無事に済みましたが、ペリーヌには自分がもう大人だなんて実感はありませんでした。
けれど、最近になって、少女は時々胸の先がムズムズとした痛痒さに襲われます。
ペリーヌは自分で縫ったシュミーズが上手くできていないせいなのだと思っていましたが、
少女の身体はゆっくりと、しかし着実に、女への階段を上り始めていたのです
そして、あたかも肉体の成長に合わせるように、心もまた本人の知らぬ間に変化していき、
性愛を求めてしまう女の心と潔癖なままでいたい少女の心の間を揺れ動いていくのでした。

「ワゥン?」
「あ・・・わたし、なにを?・・・
ううん、もう、上がらなきゃね。
だって、ファブリさん、いつもなら、そろそろ来る頃だもの。
こんな格好のわたし、ファブリさんに見られたら恥ずかしいわ。
ね、バロン・・・」

『でも・・・』と少女は考える、というより感じます。
『でも、このままでいて、生まれたままのわたしを見てほしい・・・
そして、あの広い胸に抱きしめてもらえたら・・・』
それは言葉にはならない想いでした。
あるいは、それは大人の男性であるファブリを亡き父に重ね合わせていただけだったのかも
しれません。けれど、ペリーヌの母マリが初めて父を知ったのもまた、少女と同じ歳のこと
だったといいます。

 月はますます煌々と輝き、去りがてに水面にたたずむ少女を照らしていました。



 伯爵様、すばらしい作品をいただき、ありがとうございます。
伯爵様のペリーヌは、本編中では描ききれていなかった少女の愛らしさ、女らしさが内から
にじみ出るようで、描きにくいキャラデザインをここまで昇華していただき感謝いたします。
ちなみに、少女沐浴図は私の最も心惹かれる題材でございますw

水鳥も、早巣に籠り、水面吹く、幽けき風が、柳葉を揺す
十六夜の、群雲かかる、宵闇に、乙女が一人、池に忍びぬ
あだな雲、乱れ散りゆき、沐浴の、乙女裏切り、帳開かん
煌こうと、白き月影、輝きて、美し裸身を 照し出さしむ


                                      otto