【  愛Shadow  】


贈呈者 真紅 さま 2004年5月16日






真紅様から 「私のあしながおじさん」よりジュディ嬢をいただきました


『あしながおじさま、こんなことを書いたら、おじさまはきっと驚かれることでしょう。
だっておじさまが知っているわたしは、あの孤児院で一度だけ見たやせっぽちな小さな
女の子でしかないのですもの。
でも、あれからもう3年近くたって、わたしは17歳になりました。
もう男の方を愛することを知っても少しもおかしくない大人になったのです。

                   
ひ と
 わたしは・・・わたしにはとても大切な男性がいます。
その方の名は、ジャービス・ペンデルトン・・・
おじさま以外にたった一人、わたしが生まれて初めて愛した男性でした。
彼もわたしを愛してくれていると分かった時、わたし、嬉しかった。
彼の胸に身も心もあずけて、いつまでも一緒の道を行きたかった。
 でも・・・わたしにはできませんでした。
ジャービスが真剣に愛してくれればくれるほど、わたしは孤児である自分が名門である
ペンデルトン家にふさわしくない娘だという事に身がすくんでしまったのです。

 いいえ・・・いいえ、違います。わたしは彼を後悔させるのが怖かったのです。
今までわたしはサリーやジュリア、学園のみんなに、そしてもちろんジャービスにも、
自分が孤児である事を誰にも打ち明けられませんでした。
彼が見ているわたしは偽者のジュディなのです。
その事を知られた時、きっと彼を後悔させてしまう・・・

 おじさま、おじさまにお会いしたい・・・会って教えてもらいたいのです。
本当の自分を見せる勇気の持てないわたしに、人に愛される資格があるのでしょうか?
ううん、ただ会って、何も言わなくてもいい、そっと腕に包んでもらいたい・・・
そうすればきっと・・・』

 ジュディは胸にポッカリと開いてしまった穴を少しでも埋めようとでもするように、
出すつもりのない、あしながおじさまへの手紙を書いていました。。
そしてただ一度、車のヘッドランプに映し出された影しか見たことがない、名前も顔も
知らぬ紳士、自分にハイスクール進学への道を開き、心躍らせてこの学園に来てからも
ずっと励まし援助してくれた、おじさまの事を思います。
 何度も会いたいと思ったその願いは叶えられませんでしたが、捨子だった天涯孤独の
ジュディにとって自分に無償の愛を注いでくれるおじさまは肉親への愛慕にも似た情を
寄せることのできる唯一の人でした。
ジャービスへの愛を諦めようとする悲しみに沈む彼女には、おじさまに小さな女の子の
ように抱きしめてもらえたらどんなに心が落ち着くだろう勇気が湧くだろうと、今ほど
おじさまに会いたいと感じられたことはありませんでした。
 ジュディはライトを消し瞳を閉じて影に身を委ね、せめていつか見たあのおじさまの
シルエットに抱かれている自分を思い描こうとします。しかし暗闇は夜更けの静けさと
真冬の深深とした冷気しか伝えてくれなくて、彼女に寂しさを増させるばかりでした。

「しっかりなさい、ジュディ、自分の力で生きていくって、そう決心したじゃない
わたしはもう子供じゃないのよ
そう・・・もう子供じゃない・・・」
 ジュディはナイトガウンを肩から落として、窓ガラスに映る、月明かりに照らされた
自分をみつめました。
「これが今のわたし・・・
すべての飾りを脱ぎ捨てればわたしも他の娘と同じ、ただの普通の娘に見えるのに
でも、わたしのここにはいつまでも抜けない、誰にも抜くことのできない棘がある
愛しているから・・・貴方を不幸にしたくないから・・・
ジャービス・・・」


「ジュディ・・・」
 何かが、ふっ、と動いたように感じられました。月をさえぎった雲の影だったのかも
しれません。それは抱きしめるようにジュディを包みました。
そして、忘れられない彼の声がジュディに聞こえたように思え、いくら忘れよう、胸の
奥にしまい込もうとしても、彼の思い出が心に次々とあふれてきてしまうのを彼女には
止める事ができませんでした。
 嵐の中で彼女を守ろうと抱きしめてくれた力強い腕、紅く染めた頬を隠すように頭を
もたれさせた広い胸、初めての口づけのときめき、彼の真剣な愛の告白……
 おじさまに感じたものとは全く違う、ジャービスに触れられた現実の温もりの記憶が
ジュディの身体に蘇っていきます。二度と再び感じることができないと思うと、それは
いっそうジュディの身体の奥を痛いほどの甘美な温かさで満たしていきました。
 愛に自ら背を向けるしかなかったジュディは、彼にこの温もりを素直に返せなかった
切なさに声も無く瞳を曇らせていくのでした。




真紅様、せつない愛を謳う、美しい作品をありがとうございました。


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                                                     otto