【  わたしとわたし ふたりのロッテ  】


贈呈者 おしろい伯爵 さま 2013年1月26日






おしろい伯爵様から

ルイーゼ・パルフィー&ロッテ・ケルナー嬢をいただきました♪


・・・オーストリアとの国境に程近いケーニッヒ湖、その美しい湖畔にある「子供の家」で
夏休みを過ごしに来た二人の少女が出会った事から、この物語は始まります。
一人は、ウイーンから来た、有名な音楽家を父に持つ勝気で元気いっぱいの少女ルイーゼ・
パルフィー。もう一人は、ミュンヘンから来た、新聞記者をしている母を持つ内気だけれど
芯の強い少女ロッテ・ケルナー。初めて出会った二人は髪型以外は瓜二つで、互いに驚きと
戸惑いを隠せず、仲間たちからはやし立てられて反発する事もありましたが、どこかで強く
惹かれ合うのを感じ、瞬く間に仲良くなっていきます。
 そうして一緒に過ごす内に、二人は、誕生日や生まれた場所まで同じだった事が分かり、
自分たちが双子の姉妹である事を知ったのです。そうです、二人の両親は娘たちが幼い頃に
離婚し、それ以来、二人はお互いの事を知らずに育ってきたのです。ロッテは母を知らない
ルイーゼに母の事を語り、ルイーゼは父を知らないロッテに父の事を教えます。
 しかし、時間は無情にも過ぎていき、サマーキャンプももうすぐ終わりです。
今別れたら、今度はいつまた会えるの?……もう離れ離れにはなりたくない……お父さんと
お母さんが仲直りすれば、家族4人で一緒に暮らせるのに……でも、どうすれば?……
少女たちは思い悩みます。
そんな時、一つの妙案が思い浮かびます。それは、ロッテがウイーンのお父さんの許に行き、
ルイーゼがミュンヘンのお母さんの所へ行って、今、両親がお互いをどう思っているのかを
確かめようというのです。
いくら姿形がそっくりな双子とはいえ、二人が入れ替わるなんて、そんな奇抜なアイデアが
成功するのでしょうか?
しかし、二人の決心は固いようです・・・


 そうして、計画の実行前夜。明日はいよいよ子供の家に別れを告げ、入れ替わった二人が
見知らぬ街へ出発する日です。二人は、自分たちが知っておかなければならない人や場所の
事をおさらいしていきました。
「……うん、これで、ウイーンのこともミュンヘンのことも、だいたい分かったから、入れ
替わった先であたしたちが疑われることはもうないわよね?
あ、そうだ、肝心なことを忘れてたわ!」
 そういうと、ルイーゼは服を脱ぎ捨ててしまいます。
「もう、こんなに散らかして……」
「さあ、あなたも、服を脱いで」
「え、わたしも? いったいなにをするつもりなの?」
「いいから、早く早く!」
「……これでいいのね? それで、なにをしたいの?」
「それはね、あたしたち、髪型と服を取替えれば、誰にも見破られないって思ってたけど、
身体に自分でも知らない特徴が、ほら、自分じゃ見られないところにほくろとか、あるかも
しれないじゃない?」
「ああ、なるほど、そういうことなのね
分かったわ、じゃあ、まずわたしが見てあげるわね
そうねえ……水着の日焼け跡が濃い以外、特に目立った違いはないわねぇ……
それに、バストも同じくらい……」
 そう言ったロッテは、自らの膨らみ始めたばかりの胸を見て、自分もいつかはお母さんの
ような立派なバストに本当になれるのだろうかと、ちょっとがっかりしてしまったようです。
ですが、こればかりは仕方ありません。なにしろ、ロッテはまだまだ成長途中なのですから。

「じゃあ、今度はあたしの番ね……ホント、体つきまでソックリだわ……」
「そんなにジロジロ見られると、なんだかドキドキしちゃうわ」
「まあ!? ロッテ、あなた、もう生えてるの?」
「え? なにが?」
「ほら、毛よ、あそこの毛!」
「違うわよ、あなたがロッテじゃない。そして、わたしがルイーゼ」
「あ、いっけなーい、まだ慣れなくて、つい……
って、そうじゃなくて、それ、いつごろから生え出したの?」
「もう、あなたったら……
そんなことを他人に聞くなんて、いくら双子でもあけすけ過ぎるわよ」
「だって、同じ双子なのに、あたしだけまだだなんて、なんだか悔しいじゃない
それに、前にあたしのこと、お姉さんかもとか言ってたのに、なんだかナマイキだぞ」
「もう、しょうがないわねぇ……
いいわ、教えてあげる……たぶん……半年くらい前からだったと思うわ」
「たぶん、だなんて、几帳面なあなたにしては、ずいぶん適当ね」
「だって、こんなところ、そんなにマジマジと見るところじゃないわ」
「あら、そーお? あたしなんて、クラスの女の子の中にもう何人か生えてる子がいるって
聞いて、自分にもいつ生えてくるか、毎日のように確かめてるわ
で、どうなの? 生えてるって、どんな感じ? 生える前と、どこか違った?」
「どうって……そうね……シャワーを浴びた後に身体が乾いていくと、毛が立っていって、
それがちょっとくすぐったいわ……それくらいかしら」
「ふーん、そうなんだ、あたしにも早く生えないかなぁ……」
 それは、男まさりに見えるルイーゼの、唯一女の子らしい悩みだったのかもしれません。
双子のロッテに置いて行かれたみたいで、ちょっとおかんむりなルイーゼに女の子としての
自覚が生まれるのは、まだだいぶ先のようです。

「あら、あなただって、きっともうすぐ生えてくるわよ」
「そうよね、あたしたち、双子なんだもん!
ああ、お父さんがそれを見たら、喜んでくれるかしら?」
「エエーッ! あ、あなた、お父さんに見せるの!?」
「だって、一緒にお風呂に入れば、どうしたって見られちゃうじゃない?」
「一緒にって……あなた、まさか、まだお父さんと一緒にお風呂に入ってるの?
そんな、わたしたち、もう子供じゃないのよ!
そ、それに、いくらお父さんでも、男の人に裸を見られるの、恥ずかしいじゃない……」
「あら、だめよ、ロッテ……じゃなくて、ルイーゼ
ああん、なんだか、こんがらがっちゃいそう!
いーい、ルイーゼ、お父さんはね、あたしの裸を見ると、『ルイーゼ、お前を見ると作曲の
着想がどんどん湧いてくる、お前は私のミューズだよ』って、とっても喜んでくれるの
だから、お父さんに一緒にお風呂に入ろうって誘われたら、嫌がっちゃだめよ」
「わ、わたし、男の人に、み、見られるの、もうそんなに嫌じゃないのよ……
で、でも……お父さんも、その……裸、なのよね?」
「そんなの、当たり前じゃない! お父さんのあそこなんて、ボーボーなんだから
……ん? あなた、男の人に見られるのがそんなに嫌じゃないって、そう言ったわよね?
あたしはお父さんにだけど、あなたはお母さんと二人暮し……
じゃあ、いったい、あなたは誰に見せてるの?」
「え? わ、わたし、そんなこと言った? な、なにかの聞き違いじゃ……」
「いいえ、たしかに言ったわ! ほら、さっさと白状なさい、さもないと……」
「キャッ! ダ、ダメッ、そ、そんなところ、触らないで!」
「こんなとこに毛を生やして、ロッテって、なんだかいやらしい」
「ルイーゼのイジワル、今夜のあなた、まるで最初に会った頃のあなたみたいよ」
「まだ白状しないのね、なら、こうしちゃうんだから」
「ルイーゼ、ダメだったら、そんなに強くしたら、指が入っちゃう」
「あれ? ロッテのここ、なんだかヌルヌルしてきたわ」
「イヤ、そんなこと言わないで!
だって、女の子なんだから、こんなことしたら誰だって……
ルイーゼだって、したことあるでしょ?」
「あら、あたし、自分でこんなこと、したことないもの
でも、女の子の身体って面白〜い、もっとしたら、どうなっちゃうのかしら?」
「あなただって女の子なのに……女の子同士でこんなことしちゃ、いけない、んだから……
アンッ! こ、降参、降参よ、ルイーゼ! これ以上されたら、わたし、もう……」
「残念、あたしはもう少し続けたかったんだけどなぁ……まあ、いいわ、で、誰なの?」
「ちょ、ちょっと待って、息が苦しくて……
もう、ルイーゼったら、強引なんだから……いいわ、じゃあ話すけど、ルイーゼ、約束して、
誰にも内緒にするって……その人は……ベルナウ編集長なの……ほら、お話ししたでしょ?
お母さんの勤めている新聞社の偉い人……趣味で絵を描いてるんだけど、わたしにモデルに
ならないかって……
わたし、お母さんから、小さな主婦さんって言われてて、やりくり上手に思われてるけど、
お母さんにあまり無理はして欲しくないし、たまには良いお肉を食べさせてあげたいから、
少しでもモデル料を上げてもらえるように、そんなことを自分から言うのは恥ずかしかった
けれど、ヌードのモデルをさせて下さいって、編集長さんにお願いしたの」
「そうなんだ、お父さんのいないお家って、大変なのねぇ……
それにしても、おとなしいあなたが、そんなことをしてたなんてねぇ……」
「ゼ……ルイーゼ!」
「え? あ、ごめん、あんまりびっくりしちゃったもんで
で、なに?」
「だから、わたしもお父さんの芸術の女神の代わりになるから、あなたもベルナウ編集長に
モデルを頼まれたら、よろしくね、ってそう言ったの」
「うーん、お父さん以外の男の人に見られちゃうのかぁ……まあ、いいわ
あ、でも、あたしに毛が生えてないのを見て、その人、変に思わないかしら?」
「そうねぇ……そうだわ、ここ、街と違って虫がいっぱいいるでしょ? だから、悪い虫に
刺されて、かぶれちゃったから、剃っちゃったって言えば、大丈夫なんじゃないかしら?」
「まあ! ロッテったら、やだぁ
あそこを虫に刺されただなんて、そんなことを女の子から聞かされたら、その人、いったい
どんな顔をするかしら、ウフフフ」
「もう、ルイーゼったら、わたし、真剣なのに……そういう大人の人を困らせる悪戯じみた
とこだけには敏感なんだから……ウフッ! やだ、わたしも想像しちゃったじゃない、あの
堅物そうな編集長さんがどう答えたらいいのか、目を白黒させてるところ」
「でしょう? わたしたち双子って、やっぱりどこかで心が通じ合うものなのよ
ね、ロッテ、あなたもそう思うでしょ?」
「ウフフフフ、たしかにそうなのかもね」

 そんな、大人からみれば他愛のない、少女たちのおしゃべりは夜の更けるまで続きました。
それは、これから二人を見舞うであろう様々な試練に立ち向かわなければならない双子が、
お互いを精一杯励まし合っているように思えます。
 願わくば、少女たちの小さな胸をこれ以上痛ませるような結末を迎える事の無いように、
我々も祈ろうではありませんか。






                                      otto