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ふたごの秘密の夏休み3 始まりの章 パット1

【 パット1 】

 一方、姉妹と別れたパットは仕事探しの手始めにきらびやかに飾立てられたブティックに飛び込んでみてはデザインやモデルの働き口がないかと聞いてみますが、当然のごとく何の経験も無い彼女はどこのお店でも断られてしまいます。
それでも、ある店でお針子の口ならあると言われますが、裁縫が大の苦手な彼女は自分から辞退し、ほうほうの体で退散しました。
 ファッション関係の仕事を諦めたパットは次に、前に雑誌に載っていた写真を見て憧れた、凛々しい制服に身を包み、旅客機に乗ってお客様をお世話するエア・ガールはどうかしらと思いましたが、電話帳で調べてみるとそういう会社は郊外にあるので、いますぐ行けそうもありません。
 それなら同じように素敵だなと感じていた女性新聞記者になれないかしらと思い、今度は近くにある新聞社の場所をメモして、それらをしらみつぶしに回ってみることにしました。しかし、やはり年端も行かない少女を新聞記者にはもちろん、使い走りにさえ雇ってくれるところはなくて、メモに残るリストももう最後です。
 パットが道に迷いながらもやっと見つけたそのホワイトチャペル・ニューズ社は人通りの少ない入り組んだ路地の一角にある、うらぶれた建物の一番上の階にありました。
イザベルと駅で落ち合う時間も迫り、自分からアルバイトをしようと言い出した手前、何としてもここで雇ってもらおうと心に決めたパットはそこのドアを叩きます。

「開いてるよ、勝手に入って……
いらっしゃい娘さん、僕はここの社長兼カメラマン兼雑用係のポールっていうんだ
まあ、楽にしてよ」
「失礼します。あの…あたしにお仕事をください!」
「おやおや、藪から棒に、なんともせっかちな娘さんだな、こりゃ」
「あたし、お仕事が欲しいんです、それも今すぐ!」
「いいよ」
「だからあたし……エッ、ホントに?」
「ああ、本当に。ちょうど新しい子が欲しかったところだったのさ
でも、大丈夫かなぁ、君、ちょっと小さそうだし」
「小さいだなんて、そんな!
あたしは14歳、ううん、もうすぐ15歳なんだから、もう大人よ!」
「14歳ねぇ……
いや、小さいって言うのは……ああ、面倒くさい
いやね、僕はフランス人でね、英語は話せるけど、あまり上手じゃないのさ
まあいい、じゃあ、見せてくれるかな?」
「見せるって、何を?」
「だから、胸、バストだよ、あんまり小さいと見栄えが良くないからねぇ」
「なッ、なんですってェッ!
そ、そ、そんなこと、新聞のお仕事と、な、何の関係があるっていうのッ?!」
「新聞?……アッ、そうか! 君、勘違いしてるよ
まあ、その、うるさ方?、の目を誤魔化すのに『ナントカ・ニューズ』なんて言ってるけど、ここ、新聞なんか出しちゃいないんだよ
ここでやってるのはね、モデルの女の子の写真を撮って、それをカードにして売ってるんだ
ほら、こういうの、ね、とってもきれいな子たちだろ?」

 手渡された写真には豊かなバストを強調するように様々なポーズをとった全裸の娘たちの姿が写っていて、このような写真を彼女が見るのはもちろん初めてでした。
 やさしくはあるけれどイギリス流の謹厳な両親に育てられた少女にとって、それはとても破廉恥なものに思えて、彼女の顔がカーッと耳たぶまで赤く火照ってきます。
 パットは慌ててそれらの写真をテーブルの上に投げ出して顔を背けたのですが、娘たちのグラマラスな裸体が目に焼き付いてしまいました。

 『確かにこの娘たちに比べれば、あたしのは……』そう思うと、パットもやはり女の子としてのプライドが傷つきます。
そして、さっきの彼の言葉が耳に甦り、面と向って君の胸は小さいとけなされたような気がしてきて、急に怒りが沸きあがった彼女はそろそろ中年にさしかかろうという、悪気は無さそうに見えるこの男の顔をキッと睨んだのでしたが、何か言い返そうと口を開きかけた時に彼と目が会ってしまいました。
 じっと見つめている彼の青い瞳が、服を透かして自分のバストを測っているような錯覚に襲われたパットは胸のラインが服地に映るのを隠そうとブラウスに手をやり、そのまま何も言えなくなって俯いてしまいます。

 そのパットの目の前には、先ほどのヌード写真が散らばったままで嫌でも見えてしまい、顔を上げることもままならず目をさ迷わせていると、それらの一枚一枚に写る娘たちの顔がだんだん自分の顔に見えてきます。パットのやってみたい仕事の一つにはモデルもたしかにあったのですが、でも、こんなのは絶対いやでした。
ですが、待ち合せの約束まで残り時間もわずかとなってしまい、今日の仕事探しを自分から言い出した手前、このまま手ぶらではイザベルに会わす顔がありません。そんな事を思っているうちに、もし自分がこの「お仕事」を承知したらどうなるのかしらという考えが、ふとパットの心によぎります。

 それは、起こり得たかもしれない、一つの選択でした・・・

 ・・・慣れるまでそのままでいいよ、と言われて、ひとまずほっとしたパットでしたが、中にベッドや寝椅子が置かれ、スタジオというより寝室そのものに見える閉め切った部屋に男の人と二人きりで、しかもバスタオルの下に今は何も着けていないと思うと、それだけで心臓が破裂しそうでした。
 すっかり身体を固くしているモデルにポールは冗談を言って緊張をほぐそうとしますが、それより彼のちょっと変なしゃべり方のほうがよほど可笑しくて、はにかみながらも彼女は次第に笑顔を見せはじめ、問われるままに仕事を探していた事情を話していきました。
 これでやっと仕事になると踏んだポールは手始めに彼女を寝椅子に横たわらせると、まだフィルムは入ってないからと安心させ、カメラアングルのテストがてら少女に色々な姿勢をさせて次々にシャッターを切り、カメラを向けられるのにパットが慣れてきたのを見計らい、だんだん大胆なポーズを取らせていきました。

 そして、いよいよ撮影本番となり、ポールは彼女に裸になるように言ったのですが、男の目に肌を晒すのはさすがにまだ躊躇われるのか、なかなかバスタオルをとる事ができなくて、ようやくそれを外した後もそれを胸に抱えたまま背中を向け、パットはか細い肩を震わせています。

「可哀想に、そんなに恥ずかしかったの? それなら、写真撮るの、やめてもいいよ
でも、せっかく勇気を出してここまできたのに、それじゃモデル料もあげられないね
それにイギリス人は名誉を大事にするって聞いてるから、君だってモデルをやるっていう
約束、破りたくなんてないよね?
僕、君が気に入ってるんだ、こんなにきれいな子を撮れないなんて悲しいよ
ね、どうだろ、後ろ姿だけでも撮らせないかな?
女の子の大事なとこは写さないって約束するよ、もちろんモデル料も払うからね」
「本当に…背中からしか撮らない?………
だったら……」
「ああ、ホントさ!」
「それに……あの、ハダ……ううん、お洋服を着てる、普通の写真も撮ってくれる?
だって、お金をもらっても、こんなお仕事だったなんて、イザベルに言えないもの」
「ハハハ、君って本当に可愛いね、もちろんいいとも、ここには君に似合いそうな服がたくさんあるから、好きなのを選ぶといいよ、そうしたら僕がとびきり可愛く撮ってあげる
 そのかわり、写真には撮らないから、僕にだけ、君の全部を見せてくれる?
今の君のきれいな身体を、せめてこの目に焼き付けておきたいんだ
これは他の誰にも教えない、二人だけの大人の秘密にしよう、ね、それでいいよね?
なあに、僕は今までどおりファインダーを通して君を見る、そして君が輝いて見える瞬間にシャッターを押す、大丈夫、さっきも言ったようにフィルムは入ってないから気にしないで、これは僕の仕事柄の癖みたいなもので、そうしないと君の一番美しい姿を僕のハートに残せないんだ
じゃあ、よかったら、それを僕に……そう、いい子だ」

 少しの間逡巡した後、バスタオルをポールに手渡したパットは彼の言う条件をのんだ印におずおずと身体を開いて、ほんの一時間前までは会った事さえなかった男の前に、実の父にすら見せた事のない彼女の一糸まとわぬ肌のすべてを露わにしていきます。
 しかし、いくら覚悟を決めたとはいっても、父と同じ年恰好の見ず知らずの男性に素肌を見せるのはどこか背徳的で、とてもいけない事をしているのかもしれないという罪悪感と、もしこの先彼女に恋人ができて、初めて求められる時が来たとしても、これほど感じる事はないと思えるほどの恥ずかしさに、パットは小鳥のように胸を打ち震わせていました。

 そんな、今にも涙が零れ落ちそうな少女の表情も、ほんの少し目線を変えさせさえすれば、初々しい幼妻が恥じらいの表情を浮かべながらも知り染めたばかりの官能を良人に期待しているようにも、また、生れながらのサキュバスであるかのごとく、見ただけで男に狂おしいほどの欲望を掻き立てさせるニンフェットのようにもなり、それをよく知っているポールはカメラの前のパットに向って言葉巧みにポーズをとらせていきました。

 この時のパットは、ただただ人前に肌をさらす恥ずかしさに耐えるのが精一杯で、自分が異性から性愛の対象として見られるかもしれないなどとは夢にも疑わずに、どんなポーズを要求されてもポールの命ずるままにしたがっていましたが、気付かぬうちにどれほど淫らな姿態を晒していたのかをパットが知っていたなら、さぞかし顔を青ざめさせたことでしょう。
なぜならポールがファインダーのフレームに収めていった光景は、男の性の衝動をまったく知らない処女でさえ、それを見れば自らの純潔が今まさに危ういと分かってしまうほどに、そこに映る少女を犯したいという欲望を見る者に起させるに充分なものだったのですから。

 やがて、パットが緊張に耐え切れずに疲れを見せ始めるとポールはそろそろ潮時と思い、これから本当に写真を撮るからと言ってカメラを替え、シーツを羽織らせた彼女をベッドに横たわらせます。
それは学院の寮でパットたちが使っていた物に比べてとても大きなベッドで、もしポールがその上で彼女を力に任せて組み敷き、考えられる限りの体位を試す心づもりがあるならば、それにはちょうどよさそうに見えます。
事実、ポールがベッドの端に腰掛けてきた時には、不安にかられたパットは胸元でシーツを握る手を思わず固くしてしまいましたが彼は身体に触れず、ほつれた髪を直しただけでした。

 ベッドの上ではそのままシーツで前を隠していることが許されて彼女はいくぶん気が楽になりましたが、撮影が進むにつれて布で隠される部分がどんどん減らされていき、ポーズによってはお尻が丸出しになって、背中から写すとはいっても後ろから見られれば全裸同然でした。
そのうえ四つん這いのポーズにさせられた時、ポールがカメラを手に自分の背後に移動していくのを見て、このまま約束どおりに真後ろから撮られたらあそこが写真に写ってしまうと気付いた彼女は、それだけは耐えられなくてベッドの上に身体を縮こませてしまいました。

「だ、ダメ、約束よ、そ、そこは撮らないって」
「そうだったね、でも、そこは影になって、写真には写らないよ
約束じゃ、後からなら撮ってもいいんだよね?」
「そ、それは……」
「困ったねぇ、どちらか一方の約束を守ろうとすると、もう一方の約束が果たせない……
こんな時、君ならどうしたらいいと思う?」
「もうお終いに……ううん、だめ、それじゃ、あたし、うそつきになっちゃう……」
「オォ、君って、本当にいい子だ! じゃあ、さっきの約束をこう変えようか
君のセクス…いや失礼…アソコ?は後ろからも前からも絶対写真に写らないようにするから、君はそれ以外の場所はどこも隠さずに写真に撮らせてくれる、これでどう?」
「………胸…も?……あたしのは……小さい…んでしょう?」
「小さい?……あ、さっき言ったこと? そんなの気にしなくていいんだよ
これまでいろいろな子のを見てきたから、僕には分かるんだけど、もう2、3年もしたら、君のだってきっと大きくなる、僕が保証するよ、それに今のままでも十分魅力的だよ
こんなにきれいなポワトリーヌ、バストを隠すなんてもったいないよ、さあ笑って
ね、もう、怖くないよね? そうだ、ちょっと待っててね」

 彼が部屋を出ている間にパットは丸めていた身体をほどき、シーツを引き寄せて仰向けになって待っていると、やがて戻ったポールは手にした小道具を見せ、これで女の子の大事な部分を隠そうと言い、彼女は頷きます。
 ポールが選んだのは短剣型のペーパーナイフと、彼がパリにいた頃に写真のコンクールで優勝したという、鎖付きの金メダルでした。
ナイフは少女をえぐる男根を象徴し、鎖は断ち切れぬ隷属を、そしてメダルの煌きは少女の肉体があたかも勝利者への褒賞であるかのような印象を与え、その形状は穴そのものを表す、それらの小道具にはそんな幾重にも絡み合った性的なシンボルがあるのも知らず、パットはそれで股間を隠すと、秘部に触れる金属の固く冷たい感触がかえってその部分を火照らせていくのを感じながら、カメラの前に身体を開いていきました。

 ようやく撮影も終り、モデル料と「普通のモデル写真」を受取ったパットは逃げるようにそこから出て、駅に急ぎました。
駅では、だいぶ待ったのでしょう、イザベルが手を振って出迎え、仕事が見つからなかったことを話そうとしますがパットはそれに取り合わず、彼女の手を引っ張って発車間際の一番早く学院へ向う列車に飛び乗りました。
 しばらくしてロンドンの街の灯もまばらになって窓の外の景色が暗くなった頃、それまで押し黙っていたパットもようやく口をきき始めて、姉妹が体調でも悪くしているのかしらと心配していたイザベルを安心させました。
いったん話し始めたパットはうってかわって饒舌になり、仕事探しの失敗談を面白おかしく伝えてアルバイトは学院の近くで探せるわとイザベルを慰め、ポールから受け取った写真を見せて、わたしの将来は有名モデル嬢になるかも、と自慢するのでした。
 けれども、そんな話を聞いて素直によろこぶイザベルをよそに、パットの膝はまだ震えていました。ほんの数時間前に自分がしてしまったことを思い出すと、顔から火が出るような恥ずかしさがまざまざと甦ってきて、なんであんな「お仕事」を引き受けてしまったのか、今では自分でも分かりませんでしたが、それは誰にも、双子の姉妹にも秘密にするしかなく、パットは早くそれを忘れようと思いました。

 そうして数週間が過ぎた頃、パットは自分のしでかしてしまった取返しのつかない失敗の大きさを思い知らされます。
その日、彼女が学院近くの町のカフェでアルバイトをしていた時のこと、行商人らしい男が売物の整理をしている最中にトランクをテーブルから落して中身が床に散らばってしまい、パットはそれらを拾う手伝いをしたのですが、ふと手にした絵葉書のような物に目を落した彼女は愕然とします。
それはいわゆるフレンチ・カードと呼ばれる卑猥な写真が印刷されたもので、それだけでも少女を驚かすには十分なのに、そこに写っていたのは彼女自身で、あのポールのスタジオで撮られた物のようでした。
 しかもそのうえに、撮らないと約束をされ、写された覚えもない性器まで露わな、まるで男を誘っているようにしか見えない、いやらしい姿の自分の写真を見たパットは、やっとのことで悲鳴を呑みこみます。
 どうしてこんな写真がここにあるのか、何がどうなっているのか分からず頭が混乱して、茫然としてしまった彼女を正気づかせたのは、それを早く渡せと催促するように、目の前に差し出された彼の行商人の手でした。
我に返ったパットは、その写真に写っているのが自分だと悟られでもしたら大変だと思い、まわりに散乱するカードをそそくさと集めると彼にそれを返します。

 顔をまともに見ないように顔を背け、カードを返す手も震える少女の様子に、行商人は、『お嬢ちゃんには刺激が強すぎたかな?』と勘違いをしていやらしく高笑いしましたが、
もし彼が本当の訳を知っていたら、これは話の持っていきようでは思わぬ余禄にあずかれるかも知れないとほくそ笑んだでしょう。
 なぜなら行商人である彼にはこの辺りの家々にどんな娘がいるかも先刻承知でしたから、彼女を見ればこの辺の村娘ではなく、立ち居振舞いからおそらくあの学院の生徒だとすぐに分かり、もしそうなら、どんな理由があったにせよ、こんな写真を撮られたなどという事は絶対秘密にしているはずですから、それをばらすと言えば少女はもう彼の思いのままとなるしかないのです。
 めったに帰らぬ家で待つ稼ぎの事しか言わぬガミガミ屋の古女房や淫売宿の年増女などを今更抱く気にもなれない彼の錆び付いた一物も、若い娘をいくらでも自由にできるとなれば再び息を吹き返したでしょう。
今ならば夜毎寮を抜け出させて青草の中でその初々しい肢体をしゃぶり、汗みずくになって犯すも良し、冬ならば休みの日に借りた小屋に呼んで旅商いで冷え切った身体を張りのある熱い太ももに絡めさせ、一日中飽きることなく青い肉体を貪るのも良し、ここを通るたび、己がかつてあちらこちらの旅先で間男をしたり娼館で経験した様々な性の技巧の一から十をこれからまだ成長していく少女の身体に教え込んでいくことも、或いは彼にはできたのです。

 行商人にフレンチ・カードのモデルをしていたのを気取られずに済み、その場はなんとか切り抜けたパットでしたが、寮に帰ってからも、あんな途方もなくイヤラシイ写真がいつの間に撮られたのか、その事が頭から離れず不安はいや増すばかりでした。
 パットは知りませんでしたが実はあの時、まだフィルムは入っていないとポールが言っていたカメラにはすでにフィルムが装填されていて、しかも、周囲にさりげなく置かれていた何台ものカメラにも長いレリーズが繋げられて、彼女の肉体の隅々を様々なアングルで狙い、そこだけは許してと願った部分は、特に念入りに撮影されていたのです。

 女子も14歳ともなれば法的にも婚姻が認められ肉体的には十分大人とされて、金満家の紳士が執心の末に金に飽かせて囲い者とした、まだその身に男を迎えるには早過ぎる少女にかりそめの初夜を破瓜の血で贖わせたとしても、世間からさしたる非難も受けなかったこの当時のこと、ましてや夜ともなれば年若い娘が街角に立つあのイーストエンドでは、そんな事になるとは夢にも思わなかった初心な娘が女たらしのジゴロに騙されて安宿に連れ込まれ手込めにされても、男の多少の淫行くらいでは警察も動かず、逆に被害者の方が許可も無く春をひさぎ、男を色香で惑わした非行少女と決めつけられて、女子感化院に送られてしまうのが落ちでした。
 ですからあんな場末のスタジオでいかがわしい写真撮影を稼業にしているような男ならば、お金に困り迷い込んできた少女の裸体を前にして、外に音の洩れない部屋にいるのを幸い、魚心に水心とばかりにモデル以上の「お仕事」を強要したり、なお悪ければその「仕事」をさせられて泣叫ぶ姿を写真に撮って好色家に流したりするのもそう稀な話ではありません。

 やがて出来あがったフレンチ・カードは何百枚も焼き増されて、その一部があの行商人の手に渡ったのでしょう。
『いったい何枚、あたしの恥ずかしい写真が売られちゃったの?
もしかしたら、バイト先のご主人も?
いいえ、それどころか、町中の男の人がもうアレを!?』
 そうと思うと恐ろしくなって、自分はなんてバカなことをしてしまったのかしらと彼女は悔やみましたが、まさか姉妹に相談するわけにもいかなくて、パットはベッドにもぐりこみ頭まで布団をかぶって独り苦い涙をかみしめながら、やがて浅い眠りに堕ちていきましたが、 しかし、それは安らかなものではなく、止めどなく続く悪夢が次々と少女を襲いました。

 ふと気が付くと、パットは柵に囲われた被告席に立たされていて、まわりにはたくさんの男たちが彼女を取り巻いていました。
まもなく裁判は始まり、初めに告発文が読み上げられます。

「姓名、パトリシア・サリバン、おまえの罪状は明らかである。
 罪名は破廉恥の罪。
罪状、おまえはヌードモデルなる、伝統ある学院の生徒にあるまじき如何わしい職に就き、ふしだら極まりなくも、人前に晒してはならぬものを晒し、あまつさえ、自ら進んで劣情をそそるがごとき淫らなポーズをとり、それを写真に撮らせた。
 またその写真を通称フレンチ・カードと呼ばれるワイセツ図画に供し、それを流布させて社会の風紀を著しく乱した。
それに、相違ないな?」
「自分からだなんて、そ、そんなッ!
あたし、そんなのが作られるなんて、ぜんぜん知らなかったんですッ!」
「被告人は、否認するのかね?
よろしい、では、最初の証人、これへ」

「へえ、あっしはしがねえ行商人なんで、むずかしい話ゃ、よくわかりやせん
ですがあん時、そん娘っ子がテーブルの下から、にゅうっと出てきたのにゃぁ、驚きやした
なんせ、アレに写ってんアマッチョと、顔が瓜二つだってぇんですから
はじめゃ、他人の空似ってぇのも、ほんにあるんだなぁって、感心しやした
だけんどそん娘っ子、なんでかあっしを怖がってるみてえで、どうも様子がおかしんでさぁ
こりゃぁ、もしかすっとと、あっしゃここがピィーンときちまって、まなこをおっぴろげて
そん娘を穴んあくほど、じぃーっと見てたと思いなせえ、で、あっしは見つけちまったんで、二の腕んおんなじとこに、ホクロがあんのをさぁ
いやぁ、ぶったまげたのなんのって、そりゃあそうでしょう?
商売ぇ女も赤面ものの、赤貝ぇも丸出しのあぶな絵に載ったアマッチョが、フツーの娘っ子よろしく、こんなとこでイケシャシャーとお勤めしてるのに出くわしたんすから
で、あっしは店の主人にアレを渡し、これこれしかじかとご注進して、ついでに町の衆にも格安で分けてさしあげたわけでさぁ」
「それは良い行いをしましたな。
もしそのまま放っておいたら、被告人がどれほどの害毒を社会に及ぼしたか、考えるだけで身の毛がよだつというものです」

「では、次の証人、ホワイトチャペル・ニューズ社主、ポール某をこれへ」
「はい、僕はあくまでも芸術として、裸体写真を撮りたかったのです。
でも、その娘が、僕の払うモデル料では足りない、どうしてももっとお金がほしいと強請り、どこで聞いてきたのか、フレンチ・カードというものを作れば儲かると僕を唆したんです。
 僕はただ、その娘に言われたままシャッターを切っただけで、その娘はセクス、あ、いえ、局部を自分からカメラの前に突出して、そこがはっきり写るようにと何度も僕に言いました。
 ええ、その娘がああいう写真を撮らせるのは、あれが初めてじゃないと思います。
それに、処女かどうかも怪しいな、男を知ってなけりゃ、あんな表情はできませんよ」
「ほほう、この娘は初犯ではないとおっしゃるのですね。しかも不順異性交友までとは!
なるほど、貴重な証言、ありがとうございました」
「そんな、ヒドイッ! なんでそんなウソを言うの!!」
「被告人は静粛に!」
「いいえ、黙りません!! あたし、その男に騙されたんですッ!!!」
「廷吏、被告人を別室へ連れて行きなさい」

「さて、陪審の皆様、証人の供述はもうこれで十分かと思われます。
しかし、公正な裁きをするにあたって、最も重要なものは物的証拠であるということは言うまでもありません。
 そこで、今回は特別に、この場を借りて実況見分を行うこととしました。
もしその証拠によって皆様が有罪と判断された場合、被告人には二通りの措置が用意されております。

 その一、被告人のふしだらな品行を矯正するため、マグダレン修道院へ送致いたします。

 その二、被告人の品行矯正が為しがたいと判断された場合、その場合は当該少女の性向に見合う社会復帰の方法として、成人に達して公娼鑑札が取得できるようになるまでの5年間、隣町の公設娼館における無償奉仕を科し、その間、娼妓に必要な教養を学ばせ、実地訓練を目的に、特に無鑑札のまま、指定娼館を訪れるゲストとの交渉を重ねさせて、実技の研鑚に努めさせます。
 なお、被害に遭われたこの町の皆様には、当該少女の肉体奉仕をもってその精神的苦痛に対する賠償を受ける権利が付与され、それに加えて、当該少女のみを利用する限りにおいて、その間、公設娼館への支払いはこれをすべて免除するものとされます。
また、その期間終了にともない、当該少女の被害者への債務は完済されたものと見なします。

 そのどちらを適用するか、それも皆様の評決に委ねられますので、心して審議されん事を切に願うしだいであります」

「では、実況見分の用意も整いましたので、陪審の皆様も証拠品フレンチ・カード:Pの1から10までを携えて別室にお越しいただき、細部までとくと見分して当該少女がそれらの証拠品に写る人物と同一人物であるかどうかをご判断下されたい」

 先に別室に連れて来られていたパットは、あのスタジオにあったのとそっくりな、大きなベッドが部屋の真ん中に置いてあったのを見て、ここで何をしようとしているのか、とても不安になりました。
 まもなく陪審の男たちが部屋にやってきて、パットは彼らが例のフレンチ・カードを手に、彼女の淫らなポートレートに見入っているのを見てしまいます。
それはまるで彼らに写真を透して自分の生身のヌードを直に見られているような気がして、身が震えるほどの羞恥に囚われたパットは思わず『オネガイッ! それを見ないでッ!』と叫びました。

 そのとたん、パットは廷吏たちに取り押えられて、着ている物をビリビリと引き千切られ、下着まで剥ぎ取られて、全裸の身体をベッドの上に抑え付けられます。
そして実況見分が開始され、フレンチ・カードの中の彼女そのままのあられもないポーズを一つ、また一つと廷吏たちの手によって演じさせられ、泣き叫んでいるパットのまわりでは、男たちが見分の目的も忘れて、目の前の少女の裸体をギラギラした目で見つめていました。
 やがてすべてが終り、ベッドの上で身体を丸めて泣きじゃくるパットをよそに、男たちの合議は進められます。

「さて、皆様の評決は如何なりましたかな?
そうですか、全員一致で、あれは本人だと?
判りました、わたくしもそれに同意します。これで被告人の有罪は確定いたしました。
 それでは、その後の措置については?
なるほど、後者を選ばれますか、それは賢明なご判断ですな。
彼女もきっと満足することでしょう。
 さて、それでは最期にもう一つ、これは皆様へのご提案、というより、お願いなのですが、裁判の記録を作成するにあたり、一点だけ不明確な部分が残ってしまいました。
それは、被告人が処女であったのか、そうでなかったのか、というくだりで、よろしければ皆様方で確かめていただけないかと。
おお、承知していただけますか? それは上々!
 ああ、でも、一人だけでは不公平ですな?
法の下、全ての市民は平等でなければなりません。よろしい、今の時点で皆様方には賠償を受ける権利がすでに発生しておりますれば、後で結果さえお知らせいただければ、他の方も先付け代りに彼女の肉体を試してみて、一向に構いません。
ただし当裁判所は18時をもって閉庁となりますので、後片付けの必要もありましょうから、遅くともその一時間前には終了させてください。
大丈夫、まだ、二回りや三回りするに十分な時間がありますとも。
 ああ、それと、一応、ご注意申し上げておきます。
ダブル、トリプルなどの行為は、神聖な法廷内でされるにはあまりに不道徳ですから、どうしてもそれを望まれる場合は、それ以外の場所で、そちらでなら彼女にも将来のための良い勉強となるでしょう。
 ん? 廷吏君、なにか?
おっと、これは口数が足らなかった。君たちも役得とは言え『後片付け』は早々にな。
失礼、申し忘れましたが、ここはもちろん法廷外となっております。
 さて、それでは、本日はお疲れ様でした。
我々は事務所に戻り、この部屋はしばらく誰も入れさせませんので、皆様方にはこの一時を心行くまで存分に御楽しみいただければ幸いです」

 裁判官等が退出した後、その部屋には全裸の少女と10人の男たち、そして巨大なベッドだけが残されました。
 パットの肉体は、もはや少パットの物であってパットの物でなく、裁判官の残した言葉の意味は明らかで、ふしだらな娘を懲らしめる方法を指し示していったとしか思えません。
 彼らはお互いに視線を交し合って頷くと、全員でベッドを取り囲み服を脱ぎ始めました。
それを見て、これから自分は何をされるのだろうとベッドの中央で震え慄いていたパットは、ついに彼らの腰から下穿きも降ろされ、少女の見たことのないそそり勃つ大人の男の一物が露わにされていくのを知ってそれ以上見ていることができなくなり、両手で顔を覆います。

「どうした? なんでこっちを見ないんだ?
まさか、俺たちの裸が恥ずかしいなんて、言うんじゃないだろうな?
あんなことをしておいて、いまさらカマトトぶるなんて、やっぱりおまえはイケナイ娘だ」
「そうだ! そうだ! おまえはイケナイ娘だ!」
「違う、違うのッ! あたし、知らなかったのよ、あんな写真を撮られてたなんて
あたしのせいじゃない、あたしが悪いんじゃないわ!」
「この期に及んで、まだそんなウソをつくなんて、本当に呆れた娘だ!
これは絶対、罰が必要だ!」
「そうだ、罰だ! オシオキしろ! オシオキしろ!」
「ふしだらな娘には、どんなオシオキが相応しい?」
「目には目を、歯に歯を、ハレンチ娘には、辱めを!」
「そうだ、それこそがおまえには似つかわしい
おまえもそれを望んで、あんな写真を撮らせたはずだ
さあ、さっきのように股を開いて、好きなポーズをとるがいい」
「イ、イヤッ! 近づかないでッ!
イヤッ! ヤメテッ!! イヤアアアアァァァァッ!!!」

 ベッドが軋みをあげたと思うと、男たちがわらわらとパットに襲いかかり、彼らの肉体に覆い尽くされた少女は胸といわず腹といわず、腰も太ももも、まだ男を知らぬ肌のすべてを余す所なくまさぐられていきます。
 やがて、自分の肉体を貪る男たちの、むせかえるような体臭に圧倒されて意識が遠のいていく中、彼女は闇の中に引き込まれて行くのでした。

 それからどれほど時が過ぎたのか、再び意識を取り戻したパットがまぶたを開けてみると、もうそこには誰の気配も感じられません。
 さっきのは悪い夢だったのかしらとホッと息をついたパットでしたが、気が付けば彼女はポールのカメラで切り取られた、また別の一瞬の情景の一部となっていました。
 そこでの彼女はディヴァンに寝そべり、片足を背凭れに絡げて大きく開いた股間を短剣とメダルで隠しながら男たちの欲望を誘う蠱惑的な笑みを浮かべ、茫洋としたモノクロームの世界の、壁も天井も床すらも無い場所で泡に包まれ、一人きりでぽっかり浮かんでいます。

 でも、本当に彼女は一人なのでしょうか……
 なぜなら、そこは時が息をひそめて永遠をたゆたい、空間さえ他者との隔てとはならず、全てを一点に結ぶ場所、出会うはずのない者たちを出会せ、聞えるはずのない言の葉たちを、秘すべき心の暗闇を解き放ち、抑えがたいその想いが強ければ強いほど、お互いが触れ合い、一体ともなれるところなのですから。
 彼女がその事に気付く前にこの世界は変容しはじめ、銀灰色の背景に黒い染みが、ぽつりぽつりと現われたと思うと、あっという間に侵食されて禍禍しい闇に包まれてしまいます。
 その闇が凝り固まり、形を成して、この世界の中心にいるパットめがけて押し寄せてきて、彼女のいる場所を守っている泡に貼り付く様を、写真の影像と一つになって寸毫も動けない少女は慄きながら見詰めるしかありませんでした。

 やがて、それらの発する声ともつかぬ想念がパットの心に届きます。
『こんなものを嬉んで撮らせるとは、子供のくせになんて恥知らずな娘だろう
きっと、もう男を知っているに違いない……この娘のあれはさぞキツかろうて……』
『初めての時はどんな声で鳴いたんだろうか……ああ、僕も鳴かせてみたい……』
『身の軽そうな子だな、これなら普通じゃできない、どんな体位でもやれそうだぜ……』
『おやじのヤツ、こんなの隠してやがって、こんな小娘がいいなんて、お笑い種だぜ!
にしても……こんなのでもいいから、やりてえなぁ……』
 こんないやらしい言葉が数えきれないくらい聞えてきて、たとえ処女の身にはその意味がよく飲み込めなくとも、無数の声の持主たちが自分に何かとても酷い事をしたがっているのだけは明らかで、少女の心は凍りついていきます。
『そんなことを言うのはもう止めて』と言いたくても、声も出せず、耳をふさぎたくとも、それも叶わない彼女は汚らわしい言葉の数々に耐えるしかありませんでした。
 そうしているうちにパットの心は次第に虚ろになっていき、彼女の世界を守っていた泡も薄れて、ついにそれを破った彼らは少女の裸体に向って殺到します。

 どこにも逃げ場のない暗闇の中で、その闇より昏い想いを孕んだ幻たちは庭石の下に潜む嫌らしい扁形動物にも似た真っ黒な触手を少女の乳白色の肌に伸ばし、その上をヌメヌメと這いずりながら寄り集まり、顔も定かではない幾体もの「男」の姿になっていきます。
 その「男」たちが触れると、写真に撮られた瞬間の姿のままで固まっていた彼女の身体が再び動くようになりましたが、それは彼らの望むようにでしかありません。
 「男」たちは人形のようにパットを動かして淫らなポーズをとらせては上に覆い被さり、闇色の肉体に彼女の身体を絡み取りながら、少女のまだ知らない行為をいつ止むとも知れず無限に繰り返していきました・・・

 ・・・こんなありえない想像が白昼夢となって浮かんでは消え、また現われて、パットの心臓は早鐘のように鼓動を高め、身体の奥底を熱らせていきました。

「君、大丈夫かい? なんだか具合が悪そうだけど、胸が苦しいのかい?」
「ヤメテッ! 触らないで!
わたし、そんな女の子じゃないんだから!
こんなイヤラシイ写真なんて、絶対撮らせるもんですか!
もう二度と来ませんから、サヨナラッ!!」
「おい、君、待って、僕は無理矢理になんて、撮らないよ……
やれやれ、行ってしまった。
まったく、イギリスの女の子ってのはお堅くて……」

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