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レディ・ペリーヌ物語 27



〜 レディ・ペリーヌ物語 27 〜


【 ― ひとりぼっちの旅 後編 ― 】


 旅の4日目は森が続き行き交う人もほとんど無い中、お嬢様は旅程の遅れを取り戻そうと
歩みを速められました。けれども天はお嬢様に味方してはくれず、昼過ぎになると急に雲が
むくむくと沸き上がって空が真っ暗となり激しい嵐になりました。
烈風と猛雨に打たれたお嬢様は森へ入られましたが、雨宿り出来る場所など何処にも無く、
やがて轟く雷鳴に逃げ惑われていたお嬢様のすぐ近くの木に雷が落ち、お嬢様はその衝撃で
気絶してしまわれました。
 お嬢様が正気付かれた時には嵐は通り過ぎていましたが、すでに陽は落ちていてその日は
もう先へ進めず、そこで野宿しなければなりませんでした。
ですが、ご自身も周りにある物も何もかもがずぶ濡れで、火が起こせなかったお嬢様は一度
脱いで固く絞られた服をそのまま着られるしかなく、嵐の後、辺りに立ち籠めた冷気の中で
濡れたままの服はお嬢様のお身体から体温を容赦無く奪いました。

 木々の間でバロンを胸に抱き抱え、震えるお身体を丸めて寒さを堪えていらしたお嬢様が
浅い眠りから覚められると、旅の5日目の空が白み始めていました。
パリを発たれる時思い描かれた日程ではその日の内にマロクールに辿り着くはずでしたのに
まだ道のりの半分も歩けておらず、その事に焦りを感じられたお嬢様は、夜の間にすっかり
お身体が冷えてお風邪を召されていらっしゃいましたが、それを押して先を急がれました。
 途中、畑で野菜の朝摘みをしていた一家に出会い、路銀のお手持ちも無くなったお嬢様は
摘み取りの手伝いをさせて貰えないだろうかと頼まれてみましたが、家族で食うのに精一杯
だったのでしょう、胡乱な目で見られ断られてしまいました。

 やがて陽が高く昇り、昨日と打って変るじりじりと身を焦がすような陽射しに残り少ない
体力を削られていったお嬢様は風邪による熱や咳がひどくなるばかりかお腹まで痛みだし、
その足取りは覚束無くなっていかれます。お腹の奥で続くしくしくとした痛みは次第に強く
差し込むようになり、とうとうお嬢様は道端にしゃがみ込んでしまわれました。
それでもお嬢様は先へ進もうとされ、並木にすがって立ち上がろうとなさいましたが、足が
ふらつき街道脇に滑り落ちてしまわれます。
 その刹那、お嬢様の下腹部から生暖かい何かが漏れ出し内股を濡らしました。
それはお小水のようにさらさらした物ではなくて、殿方の精液よりももっと重く、どろりと
肌を伝い落ちる不潔な感触に嫌悪と不安をいだかれたお嬢様がスカートの中を探ると、その
手が紅く染まっていました。

『ああ、何?! 何で血が! わたし、怪我をしてたの?
 でも、こんな所、何時?…そ、そうだわ、あの時かもしれない
 あの花のおじさんにされた時、あんなに痛いって言ったのに、止めてくれなくて…
 わたしのお腹、あの時突き破られちゃったのかもしれない
 もしかしてわたし、このまま死んじゃうの?
 怖い、怖いわ、お母さん…
 でも…でもこれでまた、お母さんたちと一緒に…だったら、怖くない…
 お母さん、お父さん、今、わたしも、そちらへ、参ります…』
 破瓜の他にも女が股から出血するのをまだご存じなかったお嬢様は朦朧とする意識の中で
死を覚悟されましたが、せめて人目に亡骸を晒すのだけは避けたいと街道沿いに茂っていた
木立の中へ這って行かれました。

 最後のお力を振り絞って林の奥に入られたお嬢様はバロンに別れを告げると気を失われて
しまいました。それきりお嬢様はぴくりともせずご主人様の身に危機が迫っているを察した
バロンは人を呼びに走りました。ですが、悲しいかな人の言葉を話せぬバロンがいくら鳴き
服の裾を引っ張ってみても邪険に追い払われるばかりでした。
それでも必死に助けを乞うて街道をひた走っていたバロンは、ふと見知った匂いがするのを
感じ、そちらへ向かいました。そこに待っていたのはギリシャからパリまで長い旅路を共に
歩いた仲間だった驢馬のパリカールでした。パリカールはマロクールへの汽車賃を得る為に
お嬢様達が泣く泣く手放された後、ぼろ屋の行商をしている新しい主人ルクリと一緒に偶然
そこに居合わせたのでした。
再会の喜びも束の間、懐かしい元のご主人様の匂いを嗅ぎ取ったパリカールは誘われるまま
バロンの後について行き、ルクリもそれを追いかけて来て、バロンはついにお嬢様に助けを
呼ぶ事が出来たのです。

 倒れているお嬢様を見つけたルクリは荷馬車に乗せて町の病院へ運んで行きました。その
道すがら、うつらうつらする中でお嬢様のお口から漏れた言葉から、ルクリはパリカールを
売って間も無くお嬢様の母親が亡くなり、親戚を頼って独りでマロクールへ行く途中だった
事を知りました。

「それで、どうなんです、あの子の容態は?」
「ああ、それならもう大丈夫です、多分、飢えと乾きでただでさえ体が弱っていたところに
風邪を引き、そこに初潮まで重なって、それで倒れてしまったのだと思います
一晩安静にしていればすぐに回復しますよ
 ただ一つ、気になる点が…
出血があったので念の為に患部を内診したのですが、あのお嬢さん、処女膜が痕跡程度しか
残ってなくて…まだあの歳なので、おそらくは…」
「ええ! それじゃ、あの子がレイプされたと?!」
「はい、あの状態から察すると、かなり手酷く…お嬢さんはその事で相当ショックを受けて
いるはずですので、奥さんも気をつけてあげてください」
「可哀相に、あの子、母親を亡くしたばっかしだってのに、そんな目に遭ってたんだねぇ…
ええ、ええ、分かりましたとも、あたしがあの子を元気付けてあげますとも」
 激動の時代を生きてきたルクリは自分も娘の頃同じ経験をしたのが思い出され、その時の
自分よりずいぶん幼いお嬢様が受けられた心と体の痛手が如何許りだったかと思うと憐憫の
情を抑えられませんでした。

「ルクリ小母さん、お医者様はなんておっしゃってたの? わたし、重い病気なの?」
「なあに、心配いらないよ、あんたは少し疲れ過ぎただけなんだよ
だから一日養生すりゃあ、すぐ元気になるそうだよ
それと、おめでとうペリーヌ、あんたはもう大人に、赤ん坊が産める体になったんだよ」
「まあ、本当? 本当にわたし、もう赤ちゃんが産めるの?」
「ああ、月のお遣いが来て、股の穴から血が出たのがその証拠さ
どうだい? うれしいかい?」
「はい、とっても…だってわたし、自分の家族を持てるようになったんでしょう?」
「そうかい…そうだね、家族ってのは良いもんだ…」
「あ、小母さん、さっき看護婦さんが使いなさいって、こんな物を置いていったんだけど、
これって?」
 そう言ってお嬢様がルクリに見せたのは、蚕の繭を細長くしたような円筒状の白い物体、
タンポンでした。
それを使うと処女膜が破れてしまうと思われていて男性経験の無い少女達からは恐れられて
いますが、一度使ってみると股間で嵩張る当て布の煩わしさや漏れ出た下り物が肌に触れて
痒くなる事も無く、処女を卒業した女は大昔からタンポンを愛用していました。
お嬢様が処女でない事を知って、きっと看護婦が気を利かせて渡してくれたのでしょう。

「ああ、それかね?
それはタンポンと言って、今度みたいに女に月のもんが来た時、下り物が洩れないよう股に
詰めとく物なのさ
まあ、もうあがっちまったあたしにゃ用無しだけどね、ハッハッハ
そうだ、あんたにはこれからも月に何日かそれが入り用になるんだから、そいつの作り方、
教えてあげようかね」
「自分で作れるの?」
「あんた少しは針仕事、できるんだろう?」
「はい」
「感心感心、だったら簡単さね、こいつは脱脂綿を使った上物だけど、水気を吸う物なら、
有り合せのボロ布でも、叩いて柔らかくした枯れ草からだって作れるんだ
要は詰物なんだから、あんたの股の穴に丁度良い大きさに丸めて、後は解けないように糸で
巻いてかがるだけさ
まあ女の大事なとこに入れるんだから、良く煮て消毒して、干してから使うんだけどね
でもその前に、せっかく用意してくれたんだから、それ、早速使ってみようかね?
あんたなら、タンポン入れるのも恐くな、あ…」
「はい、大丈夫です」
『いけないいけない、つい余計な事、口走っちまった
この子が素直な子で良かったよ、あたしゃどうも、がさつでいけないねぇ』

 お嬢様がベッドの端に腰掛け入院着の裾をはだけられると月経の血に汚れたドロワーズは
脱がされていて、その代わりにクーリーの締める下帯のように包帯が腰に回されて、股間に
当てられた下り物を吸わせる為の脱脂綿を押さえていました。
「これ、おしめをされてるみたいで、何だか恥ずかしいわ」
「そうだねえ、タンポン使うならもう要らないから、それ、取っちまおうか…」
 そう言うとルクリはお嬢様の腰の包帯を解いて脱脂綿を外し下腹部や秘裂の内側に付いた
下り物を湿らせた手拭いでぬぐってくれました。
「うん、だいぶ出血は治まってきたみたいだ
今度みたいに股の穴から出てくる血は下り物と言ってね、子宮って言う女のお腹の奥にある
赤ん坊を育てる部屋から月に一度、そうだね3、4日の間出てくるんだ」
「どうして毎月なの?」
「それはね、女が一月かけて、子宮の中で赤ん坊を授かる準備をしてるからさ
その間に好い人と、その…その人から種を貰うと、赤ん坊が出来るんだ
だけど、そうじゃないとまた準備をし直すんで、その月の物が要らなくなって子宮から外に
出てくるんだ
まあそん時、腹の奥が痛んだり下り物で肌着が汚れちまうのがちょいと面倒だけど、それが
大人の女になったって事なのさ」

 そう聞いてお嬢様は先日ラザールに子宮を突かれて痛かったのは月経が来た所為だったの
だと思われました。ですが実際は順番が逆で、子宮を激しく突かれた事で直前に迫っていた
初潮の到来という女の子にとってとても大きな肉体の変化が無理やり早められ、その所為で
あんなに痛んだのだと言った方が正しいでしょう。
ともあれ月経がどうして起きるのか説明していると、自ずと話は女の体の仕組み、ひいては
妊娠に及びました。
さすがにルクリもお嬢様に向かって妊娠の原因である男女の性の営みをあからさまに口には
しませんでしたが、お嬢様はそれがどのような行為で、赤ん坊の種とは何を指すのか、十分
過ぎるほどよく知っていらっしゃいました。

 思い起せばクロアチアでの一件で青年伯爵を庇う為に処女を散らされてからというもの、
イタリアでは名も知れぬパガーニ売り、ロッコ、マルセル、ブラガ男爵が、フランスに辿り
着かれてすぐにボルネ、ロジェが、パリの街ではモーリス、クールフェラック、バオレル、
アンジョルラス、サンドリエが、そして、ひとりぼっちの旅の中でもダニエル、レイモン、
ラザールがと、お父様を亡くされて半年も経たれぬ内に15人もの殿方がまだ幼いお嬢様の
肉体の上を通り過ぎ、胎内に数え切れないくらい射精していきました。

 膣を鋭く抉っていた殿方の陰茎が子宮口に押し付けられて膨れ上がり、熱くたぎる子種が
どくどくと吐き出されるたび汚い物が体の奥に排泄されているように感じられて、お嬢様は
唯潔癖さ故に射精される事を厭われましたが、それが女にとって嫌悪するだけでは済まない
結果を招く行為であり、そんな事が続けば何時かご自分のお腹に赤ん坊が宿ってしまうかも
しれないとまではこれまで考えが及びませんでした。
それも無理ありません。いくら同じ年頃の少女には想像もつかないようなご体験を持たれて
はいても、お嬢様はまだたった13歳の子供だったのですから。

 ですが、考えてみればマリ様がお嬢様を身籠られたのは、その年齢の差から計算して今の
お嬢様と同い年の時だったはずで、幼な妻としてエドモン様と同衾されるようになって以来
1年近くが過ぎての妊娠でした。そして十月十日の後、お嬢様はお二人の間の愛の子として
お生れになられたのです。
ですから、ご自分が子を産める大人の体になったのだと言われると急に妊娠、そして出産と
いうものが身に迫って感じられました。

 とはいえ半年前よりお身体に少し丸みが増した事も日々わずかずつの変化で自覚が無く、
折角芽生えだした下萌えも二度剃られてまるで幼女のように一毛の蔭りさえ無く、まだ少し
残るお腹の痛みや出血以外これといった月経の症状も無くて、本当にご自分が大人になった
のか実感がわかなかったお嬢様は、いつかお母様と手伝ったお産で妊婦が大変な思いをして
いたのを思い出されて、ご自分が妊娠するかもしれないと考えると空恐ろしく思えました。
しかもルクリに聞くと妊娠は初潮を迎える前でも起こり得るそうで、この2週間の出来事を
考えるともしかしたらお嬢様は愛してもいない殿方の、しかも父親が誰かすら特定出来ない
子を実際に孕んでいたかもしれなかったのです。

 そんな可能性に思い至られたお嬢様はお顔を蒼ざめさせ、ルクリはまた余計な事を言って
しまったと思いました。
「あー、ま、まあ、月のお遣いの前と後1週間は赤ん坊は授からないって話しだし、それも
ちゃんと来たんだから、何の心配も要らないんだよ」
 お嬢様が強姦を受け処女を失ったのがこの1週間の出来事だと思い込んでいたルクリは、
その事に触れられたくないであろうお嬢様に言葉を濁しながら何とか慰めようとしてくれ、
それを感じ取られたお嬢様はルクリの思いやりに感謝されます。そして愛する殿方が現れる
まで、もう二度と誰にも肌を許すまいと誓うのでした。

「分かったわ、ルクリ小母さん、月のお遣いって女の子には誰にも来るものなんでしょ?
だったらわたし、もうぜんぜん恐くないわ」
「そ、そうかい、そりゃ良かった
じゃ、タンポン、入れてみようかね」
「あ、あの、小母さん、自分でしてみるわ」
「ああ、そうだね、それがいい、自分の事は自分でしなくちゃ
さ、見ててあげるからやってごらん」
「あ…はい」

 女の人の眼前に秘部を晒すのは、破瓜の傷の手当てをしてくれたお母様と、お嬢様を行方
知れずの娘だと思い込み、その証拠の股の付根の黒子を確かめる為下萌えを剃ってしまった
ボンテンペルリ夫人、そしてルクリで3人目でした。彼女が親切でしてくれているのを断る
わけにもいかず、お嬢様はお顔を赤くされながらもルクリの目の前で秘裂の帷を開帳され、
入り口にあてがったタンポンを花芯の奥へ沈めていかれます。
「そのまま指で穴の一番奥までそっと押し込むんだ…
ああ、だけど、その細いひもまで押し込んじゃいけないよ、それで使い終わったタンポンを
中から引っ張り出すんだから」
「ん…届いたわ、小母さん」
「どれどれ?…うん、ちゃんとひもが出てるね
上手に出来たじゃないか、ペリーヌ」
「ありがとう、ルクリ小母さん」

 その後も寝る前、そして翌朝起きた時にと、タンポンが替えられるたび出血が目に見えて
減ってきて体調も回復されたお嬢様が病院を退院されると、ルクリはマロクールの近くまで
行商に行くから一緒に行かないかと誘ってくれました。
 少女がひとりぼっちで旅をするのがどれほど無謀な事であったか、これまでの旅路の中で
それを身を以って思い知らされたお嬢様はルクリの申し出を有り難くお受けになられ、その
お礼に良く通るお声で、6日目は荷馬車に座り、7日目は股間に多少違和感を感じながらも
パリカールを労わり歩いて、行商の訪いを告げる口上をされました。
そして、8日目の朝以降タンポンも取れたお嬢様は呼び込みだけでなく見様見真似で覚えた
ルクリのくず屋の商売も手伝われ、その合間にタンポンの作り方や縄の綯い方など、独りで
生きていくのに役立ちそうな手仕事をいろいろ教えて貰いました。

 そうした日々はお母様と過ごした旅の生活が戻ってきたようでお嬢様のお心は慰められ、
ルクリもまた利発なお嬢様を実の娘のようにいとおしく感じるようになっていきました。
ですが、出会いあれば別れあるのが世の常、ピキニーの町が近付き二人の行く先がいよいよ
分かれる時がやって来て、お嬢様とルクリは名残惜しさに心引かれながらもそれぞれの道を
選ばれました。
 やがて、小さな追分に差し掛かったお嬢様はそこに立つ道標を目にされました。それには
しっかりとマロクール村、パンダボワヌ工場と書かれていました。
お独りでパリを発たれてから12日目の昼下がり、お嬢様はとうとうお爺様のいらっしゃる
マロクールに辿り着かれたのです。

 そのお喜びは如何程であったでしょう。けれどもお嬢様は知っておいででした。お爺様が
跡取り息子であるエドモン様とマリ様の結婚を許しておらず、ご自分が孫娘だと申し出ても
決して歓迎されないであろう事を。
 それでもお嬢様は最早たった一人の肉親となってしまったお爺様への思慕を抑えられず、
こんなに近くまで来ているのに尚も遠いお爺様はどんな人なのだろう、お顔や声はお父様に
似ているのかしらと思いを馳せて、いつか家族となって一緒に暮らす日を夢見られます。

 そうした不安と期待の中、『他人に愛されたいなら、まず自分から愛さなくては』という
今は亡きお母様のお言葉だけを頼りに、お嬢様はマロクール村への道を進まれます。
その先には何が待ち受けているのでしょう。そしてお嬢様に本当の幸せが訪れるのは何時に
なるのでしょう。


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