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レディ・ペリーヌ物語 4


〜 レディ・ペリーヌ物語 4 〜

【 旅の続き ―イタリアでのいくつかの出来事 その2 後編― 】


「キャアァァァッ! 誰ッ? 誰なのッ?!」
「ヒッヒッヒ、やっと目ぇ覚ましやがったな
いいぞぉ、さあ、泣け、わめけ、どうせ手篭めにすんなら、やっぱこうでなきゃいけねぇ
ま、おめぇがいくら泣き叫んでも、村まで届きゃしねぇがな」
「エッ? その声はッ!!」
「そうだ、おれだ、ロッコ様だよ」
 そうなのです、お嬢様を襲ったのは、一旦は改心したかに見えたロッコだったのです。
「なんでッ? なんでなのッ? なんでこんなことするのッ!!」
「なんでだとぉ、しらばっくれやがって、この尼っ子め!
これはな、インチキをしておれたちから客を奪った、おめぇたちへの罰なのさ」
「たちって…まさか、お母さんも!?」
「へッ、安心しな、ここにゃ、おめぇしかいねぇよ
だがな、おめぇの母親にも、しこたま恨みがあるんだ
その分もまとめて、先ずはおめぇの体でたっぷり恨みを晴らしてやるぜ」
「お母さんにもですってッ、お母さんのどこが恨まれるって言うのッ
お母さんは、泥棒しようとしたあなたを許してあげたんじゃない!」
「許してあげただぁ? それが大きなお世話だって言うんだよッ!
大勢の前で女にお慈悲をもらったおれたちゃ、とんだ笑い者だったぜ
ほれ、前を見てみな、おれの相棒が写真機の用意をしてるだろ
これから素っ裸にひんむかれたおめぇが男を咥えこんでるとこを撮って、ベローナ…いんや
その先のミラノまでだって、町という町、村という村にばら撒いてやるからな
そんな写真を何百、何千という野郎どもに見られちまったら、おめぇはもう表でナマイキな
口きけねぇし、それを見た母親だっておっちぬ思いがして商売どころじゃなくなるだろうよ
そんなことになるのもみんな自業自得だと、母親と一緒にせいぜい悔やむがいいや
なぁに、無理して写真屋を続けることもねぇさ、なにしろ女のする商売っていやぁ、昔から
相場が決まってるんだからな
おめぇ、今までだって裏じゃ体を売ってたんだろうが? だったら今度こそそっちを本業に
すりゃあいいのさ、それなら、おれたちのすることはいい宣伝になるってもんだよな?
なんなら、おめぇにも宣伝用に一枚くれてやってもいいぜ
それを持って、わたしはこれこのとおりの旅の淫売娘でございますって、さえずってみろよ
そんな淫売宿の壁の絵みてぇな写真を見せられちまったら、おめぇのそのお粗末な体でも、
客がナニをおったててくれること請け合いだぜ、ウヒヒヒヒ…」
「そんなッ!? ヒドイッ!!」
「何がひでぇもんかい、おめぇの大好きな肉棒でたっぷり可愛がってやろうってんだ、感謝
してもらいてぇもんだな
さあ、おしゃべりはもう仕舞いだ
おめぇがヨガリ狂って天国に昇っちまったら、記念撮影してやっから覚悟しな
それが嫌なら、せいぜい尻ぃ振って、先におれ様をイカせてみるんだ、なッ!」
「アグッ! 動かないでェッ!
イヤッ、イヤァッ、助けて、お母さーん」

 ロッコはお嬢様の腰を引きつけては自分も腰を突き出し、繰り返し貫いていきました。
お身体の育ちきっていらっしゃらないお嬢様の浅い膣は男のものを受け止めきれず、子宮を
激しく突き上げられる衝撃は、お嬢様の苦痛をいや増すばかりでした。
けれども、そのお心とは裏腹にペリーヌ様の女の器官はしだいに男のものを受け入れ始め、
哀しいかな、ご自分を凌辱する相手に快楽を与えてしまいます。
「おおう! 思った、とおり、だぜ、なんてぇ、きっつい、穴っぽこだ!」
「イヤァ、ヤメテッ、苦しいの、抜いて、お願いッ、もう抜いてェェ…」
「なに、言って、やがる、お楽しみは、これから、だっ
それに、おれ様の、ものを、締め付ける、おめぇの、ここは、そうは、言って、ねえぜ」
 お嬢様の悲痛な哀願をあざ笑うように、男の腰の動きはますます激しくなっていきます。
ですが、男にとって誤算だったのは、性愛の悦びもまだ知らないお嬢様が苦痛と嫌悪感しか
もたらさないこのような行為の中で絶頂を迎えられるはずもなかったことです。
「クソッ、この尼っ子、なかなか、イキやがらねぇ…なら、これで、どうだっ!」
「アウッ! イ、イヤッ、胸を、ンンッ、触らないでェ……
ヒギィィィッ! イタイッ、イタイィィッ! ヤメテッ、ヤメテェェェッ!」
 ペリーヌ様をふしだらな少女と思い違いしていたロッコは、なかなか思い通りにならない
相手にいらだち、体を引き起こして抱え込んだお嬢様の小さな乳房を後ろからこれでもかと
揉みしだき、乳首をひねり上げて、さらに責め苛みましたが、その苦痛はただでさえきつい
お嬢様の膣を一層狭めさせ、逆に男を追い詰めていきました。
 それから間もなく、膣内を貫くものの根元が膨れるのを感じたペリーヌ様は、これまでの
ご経験から、男が今にもご自分の中に精を放とうとしているのが分かり、それを避けようと
もがかれましたが、その動きはかえって男が果てるのを早めてしまいます。
「うおお、こりゃぁたまんねぇ、で、射精るッ!」
「アアアッ! お腹の中に! イヤァァ、出さないでェェェ……」

「フゥー……なんてこったい、久しぶりだったもんで、つい先走っちまったぜ
お、おおい、ピエトロォ、もういいぞぉ、写真を撮ってくれぇ」
 お腹の中に吐き出されたドロッとした体液の熱さを生々しく感じて息を喘がせていらした
ペリーヌ様が写真と聞いてハッとお顔を上げられると、ご自分を犯した男の相棒が写真機を
こちらへ向けてピントを合わせているのが涙に滲んだ目に映りました。そのレンズが覗いて
いるのは、ただ全裸というだけでなく、交わっている部分もあからさまに殿方の上に跨って
いらっしゃるお嬢様の淫らなお姿なのです。
そんなお姿を写真に撮られ衆目に晒されることは、一人の少女としてとても耐えられるもの
ではございませんでしたが、それよりもそのことでお母様を悲しませてしまうことの方が、
ペリーヌ様にはよほど耐えられませんでした。
「おっと、逃げようったって、そうは問屋が卸さねぇぞ」
 お嬢様はとっさに立ち上がって逃げようとなさいましたが、男に縛られた手を掴まれて、
それも叶いませんでした。
「お願いッ、写真を撮るのだけは許してッ
おじさんたちにひどいこと言ったのは謝りますッ、それに今日のことは誰にも言いませんッ
だから、写真だけはッ」
「おいおい、大勢の前で赤っ恥をかかせておきやがって、おめぇの体一つで許せされると、
本気で思ってやがるのか?
おれはな、おめぇがけなした相棒の腕前がどれほどのもんか、おめぇの母親にもとっくりと
確かめてもらわなきゃ、気がすまねぇんだよ
写真の仇は写真で返す、それが道理ってもんだ」

 もはや何を言っても許してもらえないとお知りになったペリーヌ様は、どうしたら写真を
撮られずに済むかと一生懸命お考えになられました。そして、マリ様が写真を撮られる時の
ご様子を思い浮かべられたお嬢様は、その方法がたった一つだけあることに気付かれます。
それは、像をぶれさせること。そう、その頃の写真機は、十数える間、撮られる人が微塵も
動かずに、じっとしていなければちゃんと写らなかったのです。
「ヒヒヒヒヒ、おい、見ろよピエトロ、この尼っ子、てめぇから尻ぃ振りだしやがったぜ
こいつぁ、とんだ淫乱娘だ
なあ、尼っ子、おれ様の肉棒がそんなにうめぇか?…なら、好きに喰らうがいいさ」
 そう嘯いて下卑た笑いを浮かべた男の顔は、けれど間もなく引き攣ることとなります。
男はもう一つ思い違いをしていたのです。お嬢様のような小さな娘が自分を果てさせられる
はずがないと。
 写真を撮られまいと必死に男の上でお身体を上下させるペリーヌ様にとって、未熟な膣を
抉られるのは、未だに苦痛以外の何物でもございませんでしたが、ご自身のお感じようとは
関わらず、お嬢様のそこは、クロアチアでの出来事や先日の市場の件でも明らかなように、
殿方にとってとても具合のよろしいものだったのでございます。
 ただでさえ狭い膣の内で絡み付く肉襞に締め付けられて、幼げな少女の肉体から得られた
ものとは思えないほどの快楽を味わったロッコは忽ちの内に上り詰め、再び体内を穢された
お嬢様は嫌悪感に呻かれますが、それでも動きを止めようとなさいませんでした。
 男は、犯し始めてからものの30分も経たぬ内に五度、六度と立て続けに白濁した欲望を
吐き出させられて、すでに陰嚢の中身が空同然となっているのに、手に入れた快楽を手放す
こともできず、ペリーヌ様が動かれるたび、さらに射精を促されてゼイゼイと息を切らして
いきました。

『ロッコ、お前の負けだよ…やっぱり俺達は、この母娘には勝てないんだ…』
 子宮から逆流してきて膣内で肉棒に突き混ぜられた、泡立った精液を飛び散らせながら、
ロッコの上で懸命に腰を上下に振るお嬢様を、写真機に感版をセットするのも忘れて呆然と
見ていたピエトロはそう思いました。
 けれども実はこの時、ペリーヌ様にも限界が訪れようとしていたのです。お嬢様のような
いたいけな少女にとって、自らをもって犯させ続けるその行為は、幼い肉体にはもちろんの
こと、その清らかなお心にも、余りに過酷なものだったのでございます。
『わたし…もう…これ以上…お母さん…ごめんなさい…』
 ペリーヌ様の腰の動きがとうとう止まり、ふっと気が遠くなられかけたちょうどその時、
奇しくも森の方からかすかに人の声が聞こえてきました。
「オ〜イ…バロ〜ン…」
「お、おい、ロッコ、近くに誰かいるぞ!」
「そ、空耳だろう、こんなとこに、誰もきやしな…」
「ウ〜〜、ワンッ、ワワワンッ!」
「ウワッ! な、なんだ、このぶさいくな犬っころはッ!
シッ、シッ、あっちいけ、いっちまえ!」
「オ、オイ、その犬、そりゃあ確か、その娘のだぞ」
「なんだって? それじゃあ、あの声の主は…」
「間違いない、あの小僧だ」
「なんだ、そんなのとっ捕まえちめぇば問題ねぇじゃねぇか
せっかくこの尼っ子もおとなしくなったんだ、とっととやることやっちまおうぜ」
「なに馬鹿なこと言ってるんだ、さっさ逃げるんだよ
あんなすばしっこい小僧、捕まえられやしないし、もしこんなところを見られて、あの宿の
主人を連れてこられたりしたら大事だぞ」
「宿の主人だぁ?…それがどうしたってぇんだ?」
「お前、昨日の晩の、あの男の目付きに気がつかなかったのかね?…
あ、いや、俺も今さっき、お前が昔の仲間としたっていう悪さの話を聞くまでは、そう気に
してなかったんだがな…あれは、かなりお前のことを疑ってる目だった…
もしかしたらあの男、お前が手篭めにした娘たちの内の誰かの身内なんじゃないか?
お前がそこの娘に言ってた恨み云々ってのは俺には大概にしか思えなかったが、あの男のは
きっと本物だ
もしそんな奴にまた捕まったりしたら、お前、警察に突き出されるどころじゃすまんぞ」
「ま、まさか…いや、もしそれが当たっていやがったら…
お、おい、ピエトロ、ず、ずらかるぞっ」
 顔をさーっと蒼ざめさせたロッコは、シタバタもがいてまだ自分の上に乗ったままだった
お嬢様のお身体を退かし、ズボンを拾い上げると、滑稽にも股間のものをブラブラさせて、
まるで人妻との逢引現場をその夫に見つけられた間男のように、一目散に川を渡って泊めて
あった自分達の馬車に飛び乗り、相棒が乗り込む暇もあらばこそ慌てて馬に鞭を入れ逃げて
いきました。

 それまでロッコに向かって吠えたてていたバロンは、男達が去った後、ぐったりと地面に
横たわるペリーヌ様の周りを鼻を蠢かして回り、お嬢様の手を縛っていた縄の端にロッコの
匂いを嗅ぎつけると、そこを噛んで振り回して偶然にも結び目をほどいてしまいました。
「ワワン!」
「ウ…ン…バロン…バロン、なの?
まあ、バロン、おまえ、わたしを助けにきてくれたのね?」
「クゥーン」
「そんな心配そうな顔をしないで、わたし、こんなのなんでもないん、だ、から……
ウッ…ウゥゥ…ウアアアァァァ……」
『ああ、バロン、わたし、本当はとっても恐かったの…
 人からあんなにも恨まれていたなんて…お母さんのおっしゃてたとおりだった…
 だけど、わたし、あんな事をされなきゃいけないくらい、悪い子だったの?…
 わたし、またあのいやらしい事を…痛くて恥ずかしい事をいっぱいされちゃったのよ…
 それにあの気持ち悪いのをお腹の中に…何度も…何度も…ウ、ウウウゥゥゥ……』
 胸に飛び込んできたバロンを抱きしめられたペリーヌ様は、その温もりを感じてこれまで
抑えていた感情が一気にあふれ出てきて泣き崩れられました。そして、いつまでもそうして
いたいと思われましたが、そんな少女の感傷を時は許してくれませんでした。
「おーい、バローン、どこにいるんだよぉー」
「ワン、ワワン!」
「バローン、下にいるのかーい」
「エッ、バロン、あなた、一人じゃなかったの?
ね、ねえ、そこにいるの、マルセルなのー?」
「その声はペリーヌかーい? バロンも一緒かーい? 待っててー、すぐ下りてくからー」
「アッ、ちょっと待っ…」
 お身体を起され、マルセルの声がした方にお顔を上げられると、少年は身軽そうに手足を
使ってすでに崖を伝い降り始めていて、お身体のあちらこちらがお痛みになるペリーヌ様は
身近に投げ捨てられていたシミーズをやっと手に取られましたが、縛られていた両手がまだ
痺れていてそれを着けることも叶わず、前をお隠しになることしか出来ませんでした。

「まったくおまえって奴は…ずいぶん探しちまったじゃないか
おまえ、ウサギを見ると、みさかいなくすからな
それで今日もそうだと思ってたんだけど、おまえ、ペリーヌを探してたんだな?
それにしても、おまえが走り出してから30分はたってるはずだけど、おまえ、よくそんな
遠くからペリーヌのいるところが分かったな」
「やあ、ペリーヌ、おいら、ペリーヌを探してたん…だ…」
 崖を下りきったところで、走り寄ってきたバロンを抱き上げて話しかけながらやってきた
マルセルが顔を上げると、そこに見えたのは草むらの上で胸にシミーズをあてがわれている
だけの全裸のお嬢様でした。片手をついて横座りされたお嬢様の腰から伸びる白い太ももを
見て、少年はドギマギしてしまいます。
「ペ、ペリーヌ、なんでそんな格好してるんだい?
…あ、ごめん! おいら、あっちに行ってようか?」
「ううん、いいの…お願い、マルセル、もっと近くに来て…」
 マルセルの顔を見ると、たとえ相手がご自分より年下の少年でも、心細さに緊張していた
お嬢様の心の糸がふっと緩んでしまい、目に再び涙を溜められていきました。
「ペリーヌ、泣いてるの?
そういえば、さっき崖の上から、ものすごい勢いで走ってく馬車が見えたけど、あれって…
あれって、もしかしたら、あの写真屋の馬車だったんじゃ…
もしかしてペリーヌ、あの連中に何かされたのかい?」
「ち、ちがうの、これは、その…」

 ご自分の身に起きたことをお母様に知られて心配をかけたくないとの思いから、お言葉に
詰まられたお嬢様は、何か良い言い訳はないものかとお考えになられますが、今のご自分の
有様を見られてしまったからにはそんなものはすぐには思いつかず、マルセルに本当の事の
半分だけを打ち明けられました。
「女の子の裸を写真にとっておどそうだなんて、なんてひきょうな連中なんだ!
おいらがもう少し大人だったら、ぶんなぐってやるのに!」
「ありがとう、マルセル…でも、今話したことは、お母さんには…」
「うん、わかってるよ、おばちゃんに心配かけちゃいけないからね
だけど、写真がとられなくて、よかったね、ペリーヌ」
「ええ、それもみんな、あなたとバロンが来てくれたおかげよ」
『よかった…マルセルがまだ何も知らない子どもで…』
「あ、でも、マルセルは、なんでわたしを探しにきたの?」
「ああ、それはね、ペリーヌがこの森へ行ってしばらくしてから、あの宿屋のおじさんが、
ペリーヌを一人で行かせたけどなんだか心配だって言って、おいらをここへよこしたんだ
おいらが、なにが心配なのって聞いたら、ずいぶん前にナントカってのが起きたんだって
えーと、なんて言ってたかな?…そうだ、たしかムスメカツギとかなんとか…
それなんなのって聞いたんだけど、子どもは知らなくていいって言われちゃったんだ
ね、ペリーヌ、ムスメカツギって、なんだか知ってる?」
「ううん、わたしも知らないわ、何かのお祭かしら…
ほら、男の人が女の人をおぶって競争するみたいな」
「そうか…うん、きっとそうだね」

 そうしてお嬢様がようやく落ち着きを取り戻された頃、街道の合流する辻に差し掛かった
ロッコ達の馬車の御者台の上では、こんな会話がされていました。
「ここまで来りゃあ、あいつらの足じゃすぐにゃ村に戻れねぇからでぇじょうぶだろう…
チキショウ、馬車に乗る時下穿きを落としちまって、股座がスースーするぜ」
「なあ、ロッコ…」
「な、なんだよ、ピエトロ」
「その…俺は、つくづく思ったんだがな……いや、よそう」
「おいおい、話を途中で止めんなよ、気になるじゃねぇか」
「なら言うが…つくづく女っていうのは…」
「ま、待て、皆まで言うな…」
「そうか…で、この先、どうする?
ここを右に曲がればベローナへの街道へ戻るし、まっすぐ行けば南への街道だ…
どっちに行く?」
「どっちって……そうだな、おれとおめぇの考えは、きっと一緒だろうな」
「ああ、そうだな…そうしよう」
 こうして道を違えた2台の馬車が再び出会うことは、もう無くなったのでございます。

 そんなことが起こっていた間に、子供達の会話も途切れがちになりましたが、お嬢様には
まだしなければいけないことが残っていました。
「ねえ、マルセル、一つ頼まれてくれるかしら?」
「いいけど、おいら、なにをすればいいんだい」
「あのね、わたしのお洋服とかを拾ってきてほしいの
わたしのお洋服、それに靴や手さげも、あちこちに投げ捨てられちゃってるでしょ
だけど、ほら、わたし、こんな格好だから…」
 そう言われてついお嬢様をまともに見てしまったマルセルは、慌てて目を逸らします。
マルセルは、お嬢様が身振り手振りを交えてお話をされるにつれ胸元に押さえたシミーズが
ひらひらと踊って捲れ、その下に隠されていた太ももの合さる付け根が見えてしまうたびに
気恥ずかしくなって、先ほどから同じようなことを繰り返していました。
とはいえ、お嬢様と出会うまで同じ年頃の女の子とあまり遊んだことの無かった少年には、
自分が何故それを恥ずかしく思うのかも、一度逸らした目が何故またそこへ吸い寄せられて
しまうのかも、まだ分かっていませんでした。
「う、うん、おいら、取ってきてあげるよ」
 何となく居たたまれない気持ちになっていた少年は、お嬢様の横から離れられるとホッと
して、振り返りもせずお嬢様の持ち物を一つ一つ拾い集めていきます。ですがドロワーズを
拾う時にはまた恥ずかしくなって、急いでそれを他の服の間に挟み込みました。
すべて拾い終わってお嬢様の前に戻った少年は、お嬢様を見ないようにして持っている物を
差し出します。
「ほら、ペリーヌ、全部拾ってきたよ」
「ありがとうマルセル、じゃ、それを持ってついて来て」
「エッ、服、すぐ着ないの?」
「だってわたし、身体のあちこちが汚れちゃってるから…あ、土とかでよッ
だ、だから、それを流しに川で水浴びをするのッ」
 そうおっしゃったペリーヌ様は、立ち上がって身を翻されると、片手で胸元にシミーズを
あてがった、もう片方の手をはたはたと振られながら川の方へ駆けていかれます。
そうして後ろ姿を無防備に晒されたお嬢様を、マルセルは気恥ずかしさも忘れて見詰め、
『女の子ってなんてきれいなんだろう』と思いました。

『やだ、わたしったら、こんなこと男の子には絶対に知られたくないのに、また余計なこと
 言いそうになっちゃった…
 ほんとはマルセルに先に帰ってほしいけど…こんなとこで一人になるのは怖いの、だって
 あんなことがあったばかりなんですもの…ごめんねマルセル、つきあわせちゃって…
 あっ、ここならまわりに岩もあって、ちょうどいいわ』
 川辺で何かを探していらしたお嬢様が振り向いて手招きをされると、お嬢様の剥き出しの
お尻が見えなくなり、それまで近寄り難かった少年はそちらへ駆け寄りました。
「ありがとうマルセル、じゃ、わたしの服、そこの岩の上に置いといて…ええ、そこ…
あ、それと、もう一つお願いしていいかしら…わたしが川で体を洗う間、後ろを向いて誰も
来ないか見張っててくれる?」
「こう…かい?」
「ええ…それじゃマルセル、わたしがいいって言うまで、こっちを見ないでね
コラ、バロン、あなたもよ」
「クゥ〜ン」
 それから少しすると、パシャッ、パシャッ、とお嬢様の足が水を割る音が聞こえてきて、
マルセルは、『ペリーヌは今、丸裸なんだ』と思うと心臓がドキドキしました。
少年の居る方向に背中を向けられ、川の窪みに腰を浸けられたお嬢様は、水をすくい上げて
泣き腫らされたお顔を冷やされ、お身体の隅々、特にロッコによっていたぶられてしまった
部分を丹念に手でぬぐっていかれます。
 それが済むとお嬢様は、下腹部へ手を伸ばされながら、マルセルがこちらを見ていないか
お確かめになられました。
けれどもそれは少年を疑ってのことではありませんでした。何故なら、すでに心を通わせた
マルセルのことをペリーヌ様が弟のように思われていたからで、事実それは、偶然とはいえ
裸同然のお姿を見られた後もそのまま少年の前で気後れされることなく振舞われていたこと
からも分かります。
それでもなお、下腹部を清められるところを見られてしまうのを恐れられるのは、穢された
ままの部分を誰にも見せたくないという少女なればこその羞恥心なのでございましょう。
 近くで浅瀬がせせらぐ中、お嬢様が花園を開かれると、その周囲の水がフワッと淡く濁り
花びらをなぞる間それが続いて漂い流れ、秘密の入口に指を挿し入れると、すでに中へ侵入
していた水が前よりも濃い濁りを伴い噴き出して渦巻き、二本の指の腹で肉襞に粘り付いた
ものをこそげて掻き出すと、さらに濃い濁りが一塊になって流れ去ります。
「ん…まだこんなに…」
 女の嗜みをする為とはいえ、せっかくの清流を穢してしまい申し訳なく思われながらも、
ペリーヌ様は何度もそれを繰り返されて凌辱された跡を清められました。

 やがて沐浴を終えられたお嬢様は、岸に上がられると手さげから汗拭きを取り出されて、
肌に残った水滴をぬぐわれました。
「待たせてごめんなさい、マルセル
もう…いいわよ」
「水、冷たくなかったかい、ペリー…ウワッ!
ペリーヌ、なんでまだ素っ裸なの?!」
「あら、おかしい?」
「だって、おいら男の子だよ、ペリーヌ、恥ずかしくないの?」
「ほんとはちょっと恥ずかしいわ、だけど、あなたは弟みたいなものだもの…
ううん、それ以上よ、もう本物の家族と一緒なんだわ
だから、わたしの危ないところを救ってくれた、お礼をさせて」
 そう言うとお嬢様は少年の頭に手を添えられ、ご自分の胸に抱かれました。
マルセルは突然のことに動顛してしまい、されるままにお嬢様の双丘の間に顔を埋めます。
両頬に初めて触れた歳の近い少女の胸の膨らみは、かすかに覚えている母のものに比べれば
慎ましやかなものでしたが、とても柔らかくて良い匂いがしました。
「わたし、お母さんにこうやって胸に抱かれると、とても落ち着いて気持ちが良くなるの
だから、マルセルもきっとそうだと思って…
今日は旅ができなくて、あなたのお母さんに会えるのが遅れてしまったから、淋しい思いを
させちゃったわね、マルセル
わたしじゃお母さんのようにはできないかもしれないけれど、こうやってすれば少しはまし
かと思って…家族なんですもの、わたしにお母さんの代わりをさせてちょうだい」
「ペリーヌ、そんなにおいらのことを?…
おいら、おいら…ペリーヌゥ…」
 思いがけず優しく抱擁され心の奥に抑えていた母への深い慕情を呼び覚まされた少年は、
ペリーヌ様の胸にしがみついて泣きました。

「ごめんよ、ペリーヌ…せっかく体を洗ったのに、また汚しちゃったね」
「いいのよ、マルセル、これは、あなたがお母さんを思って流した涙なんだもの、ちっとも
汚くなんかないわ」
 それは、嘘でも慰めでもありませんでした。純真に母を想うマルセルの熱い涙をその胸に
受けられた時、お嬢様はご自分が清められていくお気持ちがしたのです。
「よかった…怒ってないんだね、ペリーヌ
それじゃあ、おいらもお願いしていいかな…」
「なあに、マルセル」
「おいらが泣いちまったこと、おばちゃんにだまっててほしいんだ」
「まあ、マルセルったら…ええ、いいわ、約束する
ウフフ、これで、おあいこね、わたしたち」
「うん、そうだね、おあいこだね」
「アッ…クシュン」
「ペリーヌ、そろそろ、服、着なよ、そのままじゃ、かぜひいちゃうよ」
「そうね、それに、もう帰らないとお母さんが心配するわ
じゃあ、わたし、お洋服を着るから、その間…」
「うん、わかってるよ、こうするんだろ?
ほら、バロン、おまえもだぞ」

「……マルセル、もういいわよ」
「…ああ、よかった、ペリーヌ、今度はちゃんと服、着てるんだね」
「もう、マルセルのバカ…さあ、帰るわよ
あ、でも、そこの崖、どうやって上ろうかしら?」
「ああ、それならさっき、みはり番をしてた時に、上り下りできる段が切ってあるところを
見つけたよ、ほら、あっち」
「本当だわ、あれなら楽に上がれそう…
あら…あれは?…まあ、そうだわ、あれよ、あのお花よ!」
「えっ、花って?」
「わたし、あのピンクのきれいなお花を崖の上から見つけて、この川原まで摘みに来ようと
してたの
持って帰ってお母さんに見せたら、きっと喜んでもらえるわ
すごいわマルセル、今日はわたし、あなたに助けられっぱなしね」
「そんなことないけど、ペリーヌがよろこんでくれて、おいらもうれしいよ」
 お嬢様が持ち帰られたお花をご覧になったマリ様は、とても喜ばれました。
花弁が糸のように繊細に切れ込んだ淡いピンクのその花は、早咲きのナデシコで、花言葉を
純粋な愛と言います。
 次の朝にはマリ様も元気を取り戻され、お嬢様達はその花を携えて、再び旅立たれたので
ございます。

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