〜 夏の嵐のように 6 〜
【 嵐の後 】
スターリングは、自らの内に潜んでいた衝動の予期せぬ激しい発露に精も根も尽き果てて
しまい、初めて経験した射精という現象が持つ意味を考えることもできず、今はただ呆然と
両手を後ろについて肩で息をしています。
しかし、しまりなく半ば組まれたスターリングの脚の間にすっぽりと尻を挟まれ、自身も
相手の腰に太ももを絡げて少年にもたれかかりながら同じように胸を波立たせてはいても、
アリスには何か満たされないものがありました。
『わたし・・・いま・・・いったい何をしようとしてたの?』
どこかまだ夢うつつだった頭にそんな疑問とも不安ともつかないものが浮かんできた時、
アリスは、下腹部で何かドロッとしたものが垂れていくのを感じます
『やだ、またなの?・・・ううん、違う、今度はわたしのじゃないみたい・・・
でも、それじゃ・・・』
少年にもたれかけていた身体を起してお腹を覗き込んだアリスは、まだ薄い自分の恥毛に
ネバネバとまとわりついている白く濁った液体を見たのと同時に、それから立ち昇る青臭い
匂いにも気づきます。初めて嗅いだそれはあまりいい匂いとは思われませんでしたが何故か
厭う気持ちは起きず、頭がクラクラするくらい鮮烈なその匂いを嗅いでいる内に、アリスの
秘部がヒクッと震えました。
その拍子に股間に違和感を覚えたアリスがさらに視線を落とすと、生温かい少年のものが
割れ目にピタッと沿うように、お互いに密着させていた下腹部の間に挟まれていて、それを
目にしたアリスの脳裏に、つい先程まで自分の秘部に当たっていた、熱く張り詰めたものの
感触が鮮明に甦ってきました。
『あ・・・スターリングの、しぼんじゃってる・・・
そういえば、さっき、お腹に熱いものが・・・これって、やっぱり、スターリングのから
出たものだったのね?
これを出したから、元に戻ったの?
でも、さっきまでは・・・』
少年のそれはすでに萎えていたとはいえ、それでも少女には十分に大きく、いいえ、それ
以上に見えます。しかもそれは、ほんのちょっと前まではもっと太く大きくて、まるで棒杭
みたいに硬そうだったのです。
『わたし・・・わたし、さっき、これにまたがろうとしてた気がする・・・
だけど、どうして? こんなのにまたがったりしたら、先が当たって痛そう・・・
そんなことしたら、きっとあそこにめり込んで、刺さっちゃうんじゃないかと思うくらい
とっても痛いんじゃないかしら・・・
でも、まさか、ホントに刺さったりはしないわよね?
だって、いくら硬そうだからって、こんなの、人の身体に刺さるわけないじゃない?
そりゃあ、元からあそこに、穴とか開いてたんなら別だけど・・・
え?・・・穴?』
そこまで考えたアリスは、メンスもまだで、それが何のためにあるのかもいまだ知らず、
普段はあることも忘れていましたが、自分のあそこにはおしっこの出る穴とは別にもう一つ
穴があったことに、はたと思い当たりました。
それに、アリスには、少年のものが吐き出した熱い液体が、女の子である自分にとって何か
特別な意味のあるもののような気がします。
もしかしたら、あれは、あんな風にお腹の上にではなく女の子のお腹の中に出されるのが
本当なんじゃないか、そうならなかったからこんなに物足りなさを感じているんじゃないか
と、そんな気がしてなりません。
しかし、そうするためには・・・
『ま、まさか、そんなことないわよね?!
だって、スターリングのが、あんな小さなとこに入るわけ・・・』
しかし、あの夜のおばあさんと姉の会話がまた思い出したアリスは、その考えが間違って
いないことを悟ります。
『一線を越えるって、そういうことだったのッ?!
スターリングのだってこんなに大っきいんですもの、カールのなんて想像もつかない!?
フローラ姉さんが恐がったのも無理ないわ!!』
それなのにアリスは、官能に命ぜらるるまま、結果も考えずにその一線を越えようとして
いたことに、やっと気づいたのです。
『わたし・・・わたし、なんてこと、しようとしてたの?!』
処女に備わる本能的な破瓜に対する恐れ、おぼろげながらも少女なりに感じるその時代の
慣習が定めた禁忌、それらは皆、アリスにはまだ早過ぎる、そのような行為を決してしては
いけないと警告しています。
けれども、先ほどのスターリングがそうであったように、それらを凌駕する狂おしいほどの
快楽への欲求が、アリスのまだ幼い肉体に宿っていたこともまた事実でした。
とかく女は苦痛には強く快楽には弱いといいますが、最初はほんの偶然から始まり、やがて
本人にも抑制できない少年の欲求に手酷く柔肌を玩ばれて、そんな愛撫とはとても呼べない
ような異性との触れ合いが、いつしか少女に肉感を目覚めさせてしまっていたのです。
火盗蛾が身を焦がしてまで引き寄せられる炎のように、たとえその身がどんなに傷つこうと
思春期のとば口に差し掛かった少女に芽生えた性への誘惑はとても大きいものでした。
もしスターリングが先程の快感に呼び覚まされて再び自分を求めてきたら、それを拒める
かどうか、アリスには自信がありません。
そうなれば、今度こそ本当に少年を受け入れてしまうでしょう。そして、それは、こうして
お互いの性器をこのまま密着させていれば、確実に起こってしまいそうでした。
「スターリング・・・
ねえ、スターリング、お願い、少しの間、目をつぶっててくれる?」
「え?・・・うん、こうかい?」
まだ呆然としている少年の上から立ち上がったアリスは、足早にバスタブへ向かい、その
中に身体を沈めると、両膝を抱えて揺れる水面を見つめます。
『今日、こんなことが起きるなんて、ちっとも思わなかった・・・
わたし、スターリングに、いろんなトコを・・・
他人に言えないようなトコまで触られちゃったんだわ・・・
こんなの、おばあさまにだって言えない・・・
でも、ぜんぜんイヤじゃなかった・・・
ううん、わたしだって、気持ち良かったの・・・だけど・・・
スターリングのが・・・ココに?・・・
こんなにちっちゃなトコに刺さってくるなんて、やっぱり怖い・・・
でも、スターリング、こすり付けただけであんなに気持ち良さそうだったんだもの・・・
わたしのに入れられたら、きっと、ものすごく気持ち良いんでしょうね・・・
スターリングが喜んでくれるんなら、わたし・・・』
そんなアリスの揺れ動く心を読んだかのように、いつの間にかスターリングがバスタブの
前に立っていました。影が差して、ハッと頭を上げたアリスが顔をそちらへ向けようとした
刹那、視野の隅に、目と同じ位の高さにあったスターリングのものが見えてしまいます。
少年のそれは、アリスが絡げていた脚を引き戻して立ち上がろうとした際、どうしても腰を
相手に圧し付ける格好になってしまい、擦り付けられた少女の割れ目に刺激されて、さっき
ほどではないにしろ再び反り上がっていました。
今ではその意味するところをほぼ正確に洞察していたアリスは、もうそれをまともに見る
ことができず、あわてて顔を俯かせます。
「アリス・・・いいよね?」
アリスは何も言わず、一拍の後、恥ずかしげに頭を小さくコクンと頷かせます。
その後すぐに、チャポンと音がして目の前の水面が波打ち、胸までしか浸かっていなかった
お湯がみるみる肩まで上がって、スターリングがバスタブに入ってきたのが分かりました。
成長しきっていないとはいってももう小さな子供ではない二人が入るとさすがに狭く感じる
バスタブの中で、背中のすぐ後ろにスターリングがいると思うとアリスは緊張してしまい、
膝を抱いていた腕に思わず力がこもって身を縮こまらせます。
瞳を固く閉ざしたまま、今にも自分の肉体を求めて伸びてくるに違いない少年の手を待つ
アリスを慄かせていたのは、初体験への恐れだったのか、それとも、してはいけない事だと
知りつつそれを許してしまおうとしている少女自身の罪の意識だったのか・・・おそらくは
その両方だったでしょう。
そのまますぐにもスターリングに後ろから抱きすくめられるものと思っていたアリスは、
たとえどんなに恥ずかしいことをされたとしても、大好きなボーイフレンドの欲しいままに
身を任せて、今の自分が与えることのできるすべてを捧げる覚悟を決めていました。
けれども、それからしばらくしても少年は何もしてはこず、いったん変態を遂げ空を舞う
喜びを知った蝶が決してさなぎには戻れぬように、それを実体験してしまえば元の無邪気な
少女のままではいられない、取り返しのつかない転機を前にして、思わぬ猶予を与えられた
アリスの心は惑い、精一杯の決心が鈍るのを感じます。
『わたし、スターリングに、またお胸をいっぱい触られちゃうんだわ・・・
それに、あそこも・・・ううん、今度はそれだけじゃなくって、あの穴がどこにあるのか
確かめられちゃうのよね・・・
後ろからじゃ見えないもの、きっと、わたし、おまたに手を差し込まれて、一生懸命脚を
閉じようとしても、やっぱり男の子の力にはかなわなくて・・・ぐいぐい手探りされてる
内に、指が入っちゃうかもしれない・・・穴の入口を見つけられただけじゃ済まなくて、
わたしも知らないその奥がどうなってるのかタンケンされちゃうんだわ・・・
スターリングの指がどんどん奥に入ってきて・・・』
これから自分がボーイフレンドされるかもしれないことを想像して顔を赤くした少女は、
膝に当たる乳首の先がツンと固くなり、少しぬるくなっていたお湯の中でも、あそこの奥が
熱を帯びてくるのが分かります。
『いじっちゃだめって言われてるのに、そんな奥まで指を入れるなんて、きっとお母さまに
叱られちゃう・・・だったら、そうなる前にいっそ・・・こんな時、女の子は、男の子が
分かりやすいようにしてあげる方がいいの?
お顔の前にお尻を持ち上げて、中がどうなっているかよく見えるように、自分であそこを
めいっぱいを拡げて、スターリングのが入るとこはここよって、教えてあげた方が・・・
でも、そうしたら、おしっこの穴も・・・
アッ! ダッ、ダメッよ! そんなのできない!
だって、そんなことしたら、スターリングにもっと恥ずかしいトコまで見られちゃう!!
ああん、なんで女の子には、こんなにいっぱい恥ずかしいトコがあるの?!』
などと少女が自らの純潔が懸かる場面にしては的外れなことを考えてしまうのは、やはり
いくら覚悟したとはいえ、これから自分の身に起こる事への本能的不安から、無意識の内に
それを考えまいとしていたからでしょうか。
やがて、わずかに流れ動くお湯の感触とともに、背中をトンと触れられたアリスは、胸を
ドキリとさせ、いよいよその時が来たのだと身を強張らせます。
けれどもそれは、スターリングの背中が当たっただけでした。
「あ、ごめん、アリス、ぶつかっちゃって、二人で入るんじゃ、やっぱり狭いね・・・
ねえ、アリス、本当にぼくも入ってよかったの?」
「え?・・・ァッ・・・」
この場になって、考えてもいなかったスターリングの言葉を聞いたアリスは、そういえば
自分がさきほど少年に一緒にお風呂に入ろうと言ったのを思い出します。
それきりたゆたう水面も平らかになり、先ほど胸と胸を重ねた時と比べるととても穏やかな
スターリングの心臓の音が背中に伝わってくるのを感じたアリスは、今日はもうこれ以上、
想像したような事は起きないと分かり、ほっとして少年の背中に身をあずけていきました。
「アリス、ぼくの背中が触った時、震えていたね?
ごめんよアリス、ぼく、君にずいぶん怖い思いをさせちゃったものね」
「もう、平気・・・だって、今のスターリングは、いつものスターリングでしょ?」
「いつものぼく、か・・・やっぱり、さっきまでのぼく、変だったよね?
ぼく、考えてたんだ、どうしてあんなことしちゃったんだろうって・・・
実はぼく、アリスに謝らなきゃならないことが、もう一つあるんだ」
「もう一つ?」
「うん・・・さっき、アリスに一線を越えるってどういうことか知ってる?って聞かれて、
知らないって答えちゃったけど、ホントはねアリス、たぶん、ぼく、知ってたんだ」
「たぶん?」
「そう・・・ほら、ぼくがラスカルやポーやスカンクたちの前にも、たくさん動物を飼って
たって、君にも話したよね?
あれはぼくがハツカネズミを飼ってた時のことなんだけど、オスがメスの上にかぶさって、
何かしてるのを見たんだ
それから少しして仔ネズミが産まれたから、父さんにその時のことを聞いてみたら、それは
交尾っていって、そのオスとメスは結婚してて、そうやって父さんネズミが母さんネズミに
赤ちゃんの種をあげたんだよって、話してくれたんだ
だから、たぶん、一線を越えるって、そういうことをするんじゃないかって思ったんだ
くわしいやり方はよく知らないけど、きっとあの時、ぼくはもうちょっとでアリスに交尾?
そういうことをしかけてたんだ」
「じゃあ、あの時、スターリングのから出たのって、赤ちゃんの種だったの?」
「うん、そうなんだと思う
だからね、アリス、ぼくたち、まだ、そういうことしちゃいけないんだ
なのに、ぼくは・・・アリスがガールフレンドになってくれた時、父さんからも、女の子は
大事にしてあげなきゃいけないってよって言われてたのに、あんなことを・・・
女の子の、アリスの身体に触るのがあんまり気持ちよくて、最後は自分が何をしてるのかも
分からなくなっちゃったんだ
ぼくがこんなに身勝手な人間だったなんて、自分で自分が嫌になっちまう
こんなぼく、アリスに嫌われたってしかたないよね」
「違うのスターリング、あなただけが悪いんじゃない、わたしだって・・・
わたしも、途中から、あれがどういうことなのか、だんだん分かってきてたの・・・
なのに、やっぱりスターリングと同じようになって・・・
ううん、心のどこかで、そうしたいって思ってた気がする・・・
だってわたし、スターリングの赤ちゃんなら欲しいもの・・・
子どものくせにそんなことを考えるなんて、わたし、きっと、いけない子なんだわ・・・
だから、スターリング、そんなに自分を責めないで」
「アリス、君は、こんなぼくでもゆるしてくれるんだね?
君は本当にやさしいね・・・・・・大好きだよ、ぼくのかわいいアリス」
『ぼくのかわいいアリス』そう言われて少女はうっとりとしてしまい、少年もまた思わず
そう言ってしまった自分が恥ずかしくなったのでしょう、二人はそのまま黙り込んでしまい
ましたが、それはけして気詰まりな沈黙などではありませんでした。
昨日までの二人は、お互いに魅かれ合っているのは分かっていても、男の子と女の子である
自分たちが何故そういう気持ちになるのかまではよく分からず、もし友だちに理由を聞かれ
ても、うまく言葉にできなかったでしょう。それは今でも変わりがないかもしれませんが、
今日、初めて相手の中の異性に触れて、それまであまり意識していなかった自分たちの性の
違いに気づかされたスターリングとアリスは、二人が男の子と女の子であったからこそ求め
合うのだということ、そうして、お互いがかけがえのない存在になっていくのだということ
を、言葉よりももっと深いところで知ったのです。
『いつか、アリスと約束どおりに・・・それまでは、きっとぼくが・・・』
『いつか、スターリングと本当に・・・そして、きっと、あなたの・・・』
少年は少女を守ることを雄雄しく誓い、少女は母となる日を夢見ます。いつか本当にそう
なれたなら、どんなにかいいでしょう。けれど、まだ幼い恋人たちには、心地よく伝わって
くるお互いの心臓の鼓動を感じているだけで、今は十分に幸せでした。
にわかに少年と少女を巻き込んだ官能の渦は、こうして夏の嵐のように疾く来たり、疾く
去りました。
やがて陽も傾き、家へ帰ろうと玄関のドアに手をかけたアリスをスターリングが呼び止め
ました。そして、そっと少女の肩に手を添えた少年は、その唇に自らの唇を重ねます。
それは、まだぎこちないものでしたが、今度こそ、偶然でも衝動に流されたものでもない、
少年から少女への約束の口づけでした。
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