154

ふたごの秘密の夏休み7 若鹿の園の章 お披露目


【 お披露目 】

 ただの芝居の小道具だと信じて疑わず、言われるままにお互いに手伝い合いながら手首に装着した拘束具の金輪に鎖を通され、後ろ手に両手を固定されてしまった姉妹は、下帯姿の黒人の大男たち、サムソンとゴリアテに鎖を取られて舞台の袖口へ昇っていきます。
やがて先に舞台へ上がったジョーカーの口上が始まり、二人は舞台の中央に立たされました。

「ご来場の皆様、これまでの趣向にご満足していただけましたでしょうか?
さて、大変お待たせいたしました。今宵最後の出し物は千夜一夜の一夜の夢、アラビア国はバグダッドの都、奴隷市場の一場面にて、お忍び中に山賊にさらわれた双子のお姫様たちが哀れ高貴なその身を奴隷に堕されるくだり、演じまするは、明日15歳になる双子の姉妹、パットとイザベル嬢にござ〜い。
 さて、こちらに並ぶ双真珠、生れは遠きイスパニア、その血はかの国の王族に連なれり。
深閨に養われし白き肌はいまだ人を識らず、一点の穢れも無きその肌はまさに玉のごとし
されどある夜戯れに祭りの市井に忍びしが運の尽き、供とはぐれて夜盗に捕らえられたり。
群盗虜の貴きを識らず乙女を辱めんとすが、人買い玉石を見分け、代を払いてこれを得ん。
銀波金波の波を越え、着いた都はバグダッド、寄る辺無き乙女達、誰ぞその客愁を慰めん。
 それでは皆様、最期までごゆるりとお楽しみくだされませ〜」

 ジョーカーの前口上が終ったのを合図に会場には銅鑼が響きわたり、鞭の鋭い音が空気を切り裂くと、スポットライトが姉妹をカッと照らし出します。
 二人は突然の強烈な光に顔を背けながら、ジェーンから聞いていた話と違って、こんなに舞台を明るくされたらベールが透けて肌が見えてしまうかもしれないと心配になりました。
恐る恐るお互いを見やると、いつの間にかベールが汗を吸って乳房の上に貼り付き、もはや多少透けるどころの話ではなく姉妹のきれいなピンク色の乳首がツンと立っている様子までもがくっきりと薄絹に映っているのが見えます。
それを見てドキッとした二人は、そのことを相手に教えようかどうしようか迷いましたが、すでに舞台に上がってしまった以上、今更どうしようもなくて、お互いに口から出かかった言葉を呑み込みます。
 そうして何もなかったかのように目を反らせた二人には、客席からは少し離れているので観客には見えていないかもしれないと、自らを誤魔化すしかありませんでした。
「ラ、ライト、眩しいわね、こ、これじゃぁ、何も見えないわ」
「え、ええ、ホントにそうよね」
「それに、ここ、なんだか暑いわ」
「そうね……きっと、このライトのせい、だわ」
 しかし、そんな姉妹の戸惑いにはかまわず、『お芝居』は続いていきます。

「さあさあ、お集まりの旦那衆、本日の商品はこれで最後と相成ります。
だが、がっかりするのはまだ早い。残り物に福がある、ってよく言うでしょう?
これまでのお付き合いへの御礼に、取って置きの逸品をお見せしましょう!
これは一生に一度お目にかかれるかどうか、滅多に手に入らない、上物中の上物。
さあ、篤とこれを御覧じろ!
 何だ、まだ青臭い小娘じゃないかって?
旦那ぁ、そりゃあ確かに歳はまだ14、5、女としちゃあ、物足りねえかも知れねえ、
だがしか〜し、同じ小娘と言っても、これはそんじょそこいらの物とは物が違う!
なんと驚くなかれ、遠くイスパーニアの誉れ高き貴族の家に生れ、蝶よ花よと育てられた、正真正銘のお姫様とござ〜い!
どうです、見てくださいよ、深窓育ちのこの肌の白さ、艶! まるで真珠のようでしょう?
もちろんまだ生娘で、しかも双子ときてる!
女の持ち物は十人十色、実際、双子の具合はどうなのか、一人で姉妹の味の違いを確かめてみるもよし、お客人と責め比べてみるもよし。
娘盛りまで間がある分、蕾をどんな色に染め上げるのも、旦那のお好み次第というわけだ。
旦那方のハーレムに置いて、絶対後悔はさせませんよ!
 では皆様、ご納得いただいたなら、そろそろ競りを始めるとしましょうか……
なに? それはもっと商品をよく見てからですと? なるほど、それもごもっとも!
ならば競りの最初の付け値を金貨10枚にして、値が1枚上がるたびに姫君たちのベールを1枚ずつ取っていきましょう。
旦那方がそれを見てご自分の物にされたいと思し召しなら、競り上げてくださいませ。
ただし、隠し所ご開帳のお楽しみは、競り勝った旦那のもの。
こんな段取りで、いかがでしょう?……」

「さて、長口上もここまで、ここからはお客様方が主役でございますれば、皆様、ふるってご参加のほどを〜
 では金貨10枚から……はい、11枚……続きまして12枚……13枚…………」

 こうして双子の少女を商品とした競りは開始され、観客からの入札の値が上がるにつれて一枚また一枚と姉妹の肌を覆っているベールが剥ぎ取られていき、その度に客たちの歓声が沸き起こって、熱気に包まれた会場は芝居とも現実ともつかぬ様相を呈していきます。
 そうして瞬く間に姉妹はトップスもスリットスカートも剥ぎ取られて、残されているのはほんの申しわけ程度に乳房と局部を覆う布切れだけとなってしまいました。
それとても羞恥に慄く少女たちの汗にじっとりと濡れていまや完全に透き通り、あまり肌を隠す役に立ってはいませんでしたが、この上胸のベールを取られたりしたら、両手の自由を奪われている姉妹は前を隠すこともできず、男たちに乳房を直に見られてしまうのです。
 それを思うと、パットとイザベルには『お芝居』をこれ以上続けることに耐えられそうもありませんでした。
 少女たちはもちろん知らなかったでしょうが、こういう淫らな見世物は何も今に始まったものではありません。新約聖書の中にヘロデ王を惑わすサロメの物語が記されているようにエロティックな舞踊は古代から連綿と現代までその命脈を保っており、また、演劇の歴史の裏面をめくれば14世紀のイタリアおいて興った宮廷バレエがその端緒と言えるでしょう。今でこそ高尚な舞台芸術と成り果せたバレエも始めは宴席での余興でしかなく、舞姫たちは一糸まとわぬ肢体を惜しげもなく晒してみだりがわしいパントマイムや活人画を演じては、好色な王侯貴族たちの肉欲をそそっていたのです。

「ね、ねえ、パット、これって、お芝居、よね?」
「そっ、そうに決まってるじゃない」
「な、なら、もうこれ以上、ベール、とられたり、し、しないわよね?」
「あ、あ、あたりまえじゃない、そんなの、ありっこないわ!
(じゃないと、あ、あたしたち……)」
 けれど、羞恥に震える少女たちをよそに奴隷市場の競売シーンは佳境に進んで、いよいよ姉妹の胸のベールにサムソンとゴリアテの手が伸ばされます。
 ただのお芝居で、何でそこまで恥ずかしい目に会わなければいけないの、と我慢できなくなった二人は舞台から逃げ出そうとしましたが、屈強な男たちに手首の鎖を押え付けられていてはそれもできず、続けなければもっと恥ずかしい思いをさせるぞと脅かされてしまえば少女たちにはもう彼らの言うなりになるしかありませんでした。

「15枚、そして、16枚!
さあ、いよいよお姫様たちのバストのお披露目にございます、皆様、どうぞ拍手を!」
「そんなッ!? ま、まだ続けるの?」
「アアアッ、そ、そんな、ウソ!」
「アッ、イヤッ! ゆるしてッ!
わたし帰る! お金なんてもういらないから、わたしたちを帰して」
「イヤッ! ヤメテッ! 止めてよ、おねがいッ!」
「おまえたち、静かにしろ! ウイリアムの命令を忘れたのか?」
「逆らうなら今すぐ下もひん剥いて、おめえたちのアソコを客の前でおっぴろげてやってもいいんだぜ?」
「いんや、それじゃ手緩いな。いっそ舞台から突き落として客のしたいようにさせるってぇ手もあるんだ。
そうなったら、おめえたちの小っせえパイオツや手付かずのオメコを客たちに直に触られるだけじゃ済まされねえだろうが、いいお仕置きになるだろうよ。
 前にも、出し物は違ぇが、街で拾ったはねっかえり娘があんまり手こずらせたんで、そうしたことがあったなぁ。
普段はお高くとまってる客たちも、一皮むきゃあケダモノよッ!
狼どもの手に落ちたその娘がどうなったか、おぼこ娘にゃ想像もつかねえだろが、先を争う野郎どもにオメコはもちろん穴という穴にイチモツを突っ込まれて、白目むくまで犯られてたっけなぁ」
「そういや、元はそれなりにいいとこのお嬢様だったのが、落ちぶれて病気になっちまった親のために自分から身を売ってここに来たのはいいが、いざお披露目ん時になって、やっぱ恥ずかしいってんで、気絶しちまった事もあったよなぁ。
そん時にゃ、出張ってきたウイリアムが客の興に水を差した詫びに客たちを舞台に上げて、その娘を失神したまんま輪姦わさせた、ってぇこともあったんだぜぇ。
客席の大勢の野郎どもの目の前にがばっと股ぁおっぴろげられて、ヒーメンをぶち破られる痛みに正気づいた小娘が、ついさっきまでオボコだったてめえの穴ぽこが擦り切れるくれぇズボズボ犯られているのを晒し者にされて、気いふれたみてえにヒイヒイ泣き叫んでよぉ。
それがけえってケダモノどもを興奮させちまったんだろうぜ、一人がやっと終っても息つく暇もなしにすぐ次のイチモツを突っ込まれて、仕舞いにゃあ声も出なくなって、その小娘は木偶人形みてえになっちまったんが、それでも野郎どもは手加減なんかしねえで、思う存分小娘の胎ん中にザーメンをぶちまけていったんだ。
 それをだまって見てやがった奴の目の冷たかった事といったら、あん時はさすがに俺も、ふだん優男面したウイリアムの事を心底怖えと思ったね」
「もちろん、奴の命令を守れなかった娘にゃ、後でもっとすげえお仕置きが待ってるのは、言うまでもねえやな」
「イ、イヤァァァッ、もうやめてッ!
そ、そんなのウソでしょ? わ、わたしたちを脅かそうとしてるんでしょう?」
「そう思うんなら、ためしてみるかい? 客たちもそれを期待してるかもな」
「ヒッ! そ、そんなの、ダメェッ!!」
「オネガイッ! それだけはゆるしてェ!!」
「そーかい、そーかい
なら、じっとして、客におめえたちの身体をよ〜く見てもらうんだな」

 やがて、刑の執行を告げるようにサイドドラムがドロドロと打ち鳴らされはじめ、後から押し出されて舞台の端ぎりぎりのところに立たされた少女たちは、背中の結び目が解かれて乳房を包んでいたベールが緩んでいくのを感じ、それが外れるのを防ごうと脇を締めます。
けれどそれも空しい抵抗でしかなく、胸のベールは、汗で肌に張り付いていた小さな乳房をフルンと揺らしながら、一気に剥ぎ取られてしまいました。
 とうとう乳房を露わにさせられた姉妹が悲鳴をあげた刹那、その上半身に当てられていたスポットライトが消されて舞台は真っ暗になりました。闇に包まれた二人はほんの一瞬でも異性に胸を見られてしまったかと思うと、ドキドキして今にも心臓が破裂しそうでしたが、それでも、これでこのお芝居も終ったのね、もう男の人に恥ずかしい恰好を見られなくても済むのね、と安堵します。
 しかし、少女たちの儚い希望は間もなく点けられていった舞台の照明によって無慈悲にも打ち砕かれます。輝くライトに初々しい肢体を余すところなく照らし出された二人は、サムソンたちに後を固められて逃げることも出来ず、膝をガクガク震わせて大勢の男たちの前に全裸にも等しい姿を晒さねばなりませんでした。
彼らの淫欲に満ちた目が、腕を伸ばせば簡単に手が届くほど間近に立つ姉妹のあられもなく露出させられた肌を情け容赦なく襲い、あまつさえ、唯一隠されている秘密の花園へと向けられていきます。
 申し訳程度にしか下腹部を覆っていない薄いベールは、男たちの目がそこに集中するのを感じて姉妹が身もだえするたびに揺れてその下のぷっくりした少女の局部を微かに見え隠れさせ、早くそれを剥ぎ取りたいという男たちの欲望をいっそう煽っていきます。

 男たちの汚らわしい視線に嬲られていく姉妹の秘肉はまるで本当に彼らの手に触れられているように熱くなり、耐え切れぬ恥ずかしさに身を震わせていた二人がさらなる羞恥に突き落とされたのはこの時でした。
 少し前に、ジェーンにかぶれ止めの薬と騙されて秘部に塗り込まれた媚薬のせいで姉妹の肉体は既に身体中が熱っていましたが、それがここにきて十二分に効いてきたのでしょう。
特に下腹部は火を吹くような熱を持ち、その内側では女の器官が持ち主の意思とは無関係に男を受け入れるための分泌液をにじませ始め、腫れぼったく膨れていくラビアが少女たちのクレバスを押し開いて、ヌラヌラと愛液にまみれた淫花をのぞかせていきます。
そして、朝露を溜めた花弁から雫がこぼれるように、みるみる濡れそぼっていくそこからは少女たちの甘酸っぱい蜜が滴り落ちて、ピチャッ、ピチャッ、と舞台に艶かしい音を立てていったのです。


【Tak様からいただいたイラスト】

『なんで? なんでなの? なんで、こんなに体が熱いの?
 それに、あたしのあそこ、昨日みたいに、また濡れちゃってる
 これじゃ、まるであたしがいやらしい女の子みたいに思われちゃうわ!』
『わたし、なんにもしてないのに、なぜこんなになるの?
 こんなのイヤ! こんなの見られたら、わたし死んじゃう!
 もうイケナイことは絶対にしませんから、だからオネガイ、もうゆるしてッ!』
 媚薬の力で強制的に発情させられてしまったとも知らずに、とめどなく股間が濡れていくのを感じた双子たちは内ももをきゅっと締めて愛蜜がこれ以上秘部から垂れるを止めようとしますが、心とは裏腹に少女たちの肉体の女の部分はますます淫らな汁を溢れさせていき、太ももをトロトロと伝い落ちる滴が足下に溜まっていくのをどうすることもできません。
 それはかぶりつきの席にいた客たちにすぐに気付かれ、まるで彼らの視姦に反応しているような少女たちの嬌態はすぐさま会場中に伝わり、男たちは口々に卑猥な言葉を上らせて、姉妹を目だけでなく言葉でも辱めていきます。

「見られるだけであそこをこれほど濡れさせるとは、なんとはしたない娘たちだ」
「さも清純そうな顔をしているが、これで処女だとは、怪しいものですなぁ」
「そうですな、生まれつき余程の淫乱なのか、それともすでに調教済みなのか……
ここの調教師が凄腕なのは、もちろん貴君もご存知でしょう?」
「そんな敏感な持ち物を玩ばれ、焦らされて、悶え乱れる様を見るのも、また一興ですぞ」
「ホホォー、流石はその道でも兵と謳われた提督、まだ現役とは羨ましい限りですなぁ」
「いやいや、儂の一物…おっとこれは失敬……アレはとうに退役しとりますわい
じゃが、若い娘の肌は回春の妙薬、昔取った何とかで、女子のツボは心得ておりますでのう
フォーッフォッフォッフォ」
「おお! 我々にも是非、そこのところをご教授願いたいものですなぁ」
 そうして男たちの劣情はいやがうえにも高まり、もう何時彼らが姉妹を舞台から引きずり降ろして処女の肉体を我先に犯し始めてもおかしくはありませんでした。そして、そういう出来事は成行きに任せての事であれ、初めからそうなるように仕組まれた上での事であれ、これまで何度となくここで繰り返されてきたのです。
しかし、今宵の趣向はあくまで芝居の筋書き通りに進めるものとされ、この場の狂言回しを務めるジョーカーは男たちの欲望が頂点に達したのを見て取り、競りを再開します。

「さあさあ皆様、商品の品定めはもう十分お済になられましたでしょうか?
御覧の通り、既に姫君たちのプシはご主人様のお情けを待ちわびてアラビアの太陽のように熱く熱く火照っております!
我と思わん方はこれを憐れと思し召し、一刻も早くハレムに連れ帰り、お慰みいただければこれにすぐる幸せはございません!
 はい、20でございますね? 早速、20の入札がございました!
他の方はいらっしゃいませんか?
21…22…25……30! お客様はお目が高い! さあ、次はありませんか?
おお! 40! もう、他にございませんか、ございませんか……
はい! 金貨40枚で落札でございます!」

 男たちがどよめく中、ハンマーが音高く打ち鳴らされ、双子の姉妹はギニー金貨40枚で買われました。
 当時、それがたとえ初めての客を取る生娘であったとしても、少女を一夜買うのに場末の曖昧宿であればせいぜい10シリング、かなり高級な娼館でも1ポンドが相場でした。
それは、週に5ポンドほどの賃金しか得られない一般的な労働者にとってはそれなりの金額とはいえ、良い働き口があると人買いに騙されたり口減らしに実の親から売られたりして、淫売奉公を強いられた少女たちが受ける陵辱の苦痛と絶望を贖うには、あまりにも安すぎる代償でしょう。
 それを思えば、一人当り21ポンドとは破格の値段と言えたでしょうが、しかし、たとえそんなことを知っていたとしても、双子にとってそれが何の慰めとなりましょう。

 興奮冷めやらぬ舞台から袖口に引き戻されるパットとイザベルは、客席の男たちの目からやっと開放されたとはいえ、会場での異様な雰囲気に未だ呑まれたまま、その華奢な身体を震わせていました。
 生れて初めて自分たちだけでお金を稼ぐ事ができると期待に胸をふくらませ、何の疑いも持たずに言い付かったお仕事というのが、まさかあんな思い出すのも恥ずかしい姿を大勢の男たちに見られることだったなんて……
 それに舞台で二人を脅したサムソンたちの物言いは、とてもお芝居の上でのセリフだったとは思えませんでした……
 そして、半裸の姉妹を舐めるように見詰めていた男たちの目、目、目……
それは芝居を観る観客のものとはとうてい思えず、男を知らぬ少女にもそれと分かるほどに淫らな欲望に満ちたもので、思い返しただけでもゾワゾワと肌が粟立ってきます。
 そんなこんなを考え合わせると、苦境に立っている親を少しでも助けたいと願い、やっと見つけた働き場所が実はとんでもない背徳の魔窟だったのはないか、そんな恐ろしい考えが浮かんでは消えていき、もし本当にそうだったとしたら、わたしたちはこれからどうなってしまうの、という不安が二人の胸を締めつけます。

『あれは本当にお芝居だったの?
それともお芝居じゃなくて、もしかしてわたしたち、本当に売られちゃったの?
胸を見られただけじゃなくて、これからもっと恥ずかしいトコも見られちゃうの?
ううん、見られるだけじゃなくて、あの男の子がわたしにしようとしてた事も?
わたしのアソ…に、ペニ…が?
 ダメッ! そんなの絶対にイヤッ!
そんな事、あたしにもイザベルにも、絶対にさせないんだからッ!』
『もう、あんな恥ずかしい事、されないわよね、だってあれはお芝居…だったんだから……
でも……お客さんたち、わたしのアソ…をずっと見てた……
まるで、おまえがイケナイ事をしてるのは知ってるぞ、そんなにイヤラシイ事が好きなら、もっとスゴイ事を教えてやる、って言ってるみたいに……
わたし、怖い……どうしよう、パット……』
 二人はそんな胸の内を話し合って不安を振り払いたいと思いましたが、今、それを言葉にしてしまったらそれが本当になってしまいそうで、お互いに目を合わせることもできませんでした。

 そうした心の動揺を静める間もなく、戻った楽屋で、自分たちにあんな恥ずかしい真似をさせた張本人ウイリアムを見つけたパットは騙されたという思いにカッと怒りが込み上げ、自分がまだ半裸のままであることも忘れて彼に食ってかかりました。
しかし、この館へ連れて来られた初心な少女たちの、自分が客の淫らな欲望を満たすための性の商品でしかない事を思い知らされた時に見せる絶望も哀しみも、そんなものはすべて、彼にとっては日常茶飯事のことでしかありませんでした。
 落ち着き払った彼から当たり前のことのように聞かされた、この館でこれから自分たちを待ち受ける運命は、あたかも蜘蛛の巣に捕えられた生贄が暗闇の中で自らを食らおうとする捕食者の接近を感じ、恐怖に身悶えすればするほどますます蜘蛛の糸に絡み付かれて身動きできなくなっていくような、そんな絶望に姉妹を突き堕としていき、普段は勝ち気な少女の顔を蒼ざめさせていきます。
「ウイリアムさんッ! あ、あれはどういうことなのッ!!」
「うん? 何の事ですかな?」
「お、お芝居のことよ!!」
「おお! お嬢様方が上手く演技できたかどうか、私の意見をお知りになりたいと?」
「とぼけないでッ! あんな恥ずかしいことをさせられるなんて、聞いてないわッ!」
「ふむ……恥ずかしいとは、裸になることがですか?
ギリシャ神話の春の女神・アフロディーテは美と愛を司るといい、美の象徴として絵画にも彫刻にも題材とされておりますが、お嬢様方は芸術品が裸だからといって、それを恥ずべきものと思われるのですか? いいえ、そんなことはないでしょう?
それは人間においても然り、女性の裸身ほど美しいものは他にないのですから、お嬢様方が恥ずかしがる必要など、どこにございましょうか?
美しさは見られる事で初めて価値が生じるものなのですよ」
「なによ、そんなの屁理屈じゃないッ!
だからって、男の人の前でハダ…あんな格好をさせるなんて、あんまりだわッ!
あんなのがお仕事なら、あたしたち、もうここを辞めますからッ!!」
「ホウ?……そんなわがままが通るとお思いですか?
あなた方は、私どもと契約を結ばれたのですよ」
「それがなによ、あんのな形だけじゃない」
「とんでもない、あなた方はすでに14歳…いや、もう間もなく午前零時、それを過ぎれば15歳になられるのでしたな…ならば、法的に、あなた方はもうどんな契約も自分で結べる立派な大人なのです。
そんなあなた方が契約書にサインをしたのですから、あれは正式な契約なのですよ」
「あの…ウイリアムさん、でも、どうしても辞めたい時は? なにか方法はないの?」
「どうしても…ですか?
そうですね…そのような場合、慣例上では契約の3倍ほどを違約金として支払えば、或いは契約の解除が可能かもしれません。ですが、そうするには弁護士を雇って裁判所へ申し立てなければいけませんし、無論、その費用も相当かかるでしょうな」
「そんなお金、わたしたちにはとても……」

「フッ……では仕方ない、お前たちは契約通り、ここで働くしかないな。
手始めに、これからすぐお客様の部屋に行って、そこでお客様にご奉仕をしてもらおうか」
「これからって、今日のお仕事はもう終ったんじゃ……
それに、ご奉仕って、いったい何をするの?」
「いやいや、これまでのはほんの余興、お前たちの仕事はこれからが本番なのだ。
ご奉仕とは、もちろんお前たちを買ってくださったお客様を満足させる事に決まっている」
「か、買ったって、あれはお芝居だったんでしょう!?」
「芝居…ね、確かにあれもお客様に楽しんでいただくための趣向の一つ。
商品であるお前たちのお披露目だったのだよ。
どうすればお客様が喜んでくださるかは、なにぶんお前たちは初めてで分からんだろうが、なーに、お客様に身を任せていれば、いやでも覚えられるだろう」
「身を任せるって………
ま、まさか!? バカなこと言わないでッ!!」
「何を言うかと思えば、これだからお嬢様育ちは世間知らずで困る……
肉体を売るのは女の持って生れた商売に過ぎないではないか。愛だの恋だのと言って、その実は自分の身を餌にちらつかせて男をたぶらかす、女なら誰もがしている行為なのだよ。
ならば、いっそ始めから商品として肉体を差し出し、お客様に使っていただく方が、よほど恥じるところが無いとは思わないかね?」
「そんなッ! あたしたちにそんなフシダラなこと、できるわけないじゃないッ!!」
「ふしだらか……
なるほど、将来夫となる者に操を捧げたいとは、やはり、あの学院の生徒だけの事はある。
だが、形は違え、婚姻も所詮は一人の男の専用となる契約に他ならないのだよ。それとて、裏切られるのは何も珍しいことではないがな。
 それはそうと、先ほどお前たちが演じたショー、あれはふしだらではなかったのかな?」
「あ、あたりまえだわ……あんなの二度とやるもんですか!」
「そうかな? これからも私のどんな言いつけにもお前たちは従ってくれるとも、いいや、そうしなければならないと言った方が正確だろうな。
なぜなら……想像してみようじゃないか。もし今、先程の“ふしだらなショー”に出演したお前たちがあの学院の生徒だと、お客様たちに告げたとしたら……」
「え?……アッ! そ、そんなッ!!」
「フッフッフ……、さすが、呑み込みが早いな。
さよう、最初に教えたとおり、当館のお客様は名士ぞろいなれば顔も広い。お前たちがあの学院の生徒だと知れたら、やがて噂が噂を呼んでスキャンダルとなり、当然、学院の名声も地に落ちるだろうな。
もちろんお前たち自身も学友から非難され、不名誉にまみれながら学院からも追放されて、ついにはマグダレン修道院のような非行少女の更生施設に収監されるのは必定、そんな事になったら両親がどんなに悲しむか……お解かりかな?
 しかし、契約を守ると誓うなら、私もお前たちの秘密が表に出ぬように取り計らおうじゃないか」
「お、おどすのねッ!? 卑怯者ッ!」
「脅すなどとんでもない。お前たちが契約を破ろうなどとは寸分も疑ってないのに、そんな必要は無いだろう? ただ、念の為に、契約を守らなかった場合に起こり得るかもしれないお前たちの未来をほんの少々教えたまでだよ」

「それより、お前たち、二人とも身体が火照って仕方ないのではないかな?
隠そうとしても無駄だ。お前たちがお客様を受け入れる時の助けとなるよう、媚薬を与えておいたのだから。その様子なら効き目は十分のようだな?
 今のお前たちは肌に触れられただけでも快感を覚え、熱く濡れた女の部分は破瓜の痛みがどれほど大きかろうと、男のものを奥深くに迎えるまでその疼きは決して治まりはしまい」
「ナッ! 何を!? あたしたちにいったい何をしたのッ!!」
「なに、商品のコンディションを整えておくのは当然の事、快楽に何も反応しないでは木偶人形も同然だからな。わが館の娘、ビシェット(若い牝鹿)となるからには、例え初めてのご奉仕とは言え、お客様を十二分に満足させるようお相手を務めねばならぬ。
そのために、ジェーンに準備をさせておいたのだ」
「アッ! まさか、あれって? だからこんなに?
ヒドイッ! ジェーンさんもグルだったなんて!」
「わたし……わたし、信じてたのに……そんなのうそよ! ねえ、うそだと言って!」
「それだけではないぞ、お前は今朝のことを覚えていないだろうが、館の娘としてお客様へ差し出すのに相応しいかどうか、私手ずからお前の身体の隅々まで調べさせてもらった。
もちろん、イザベル、お前もここへ来る前にな。
二人とも正真正銘の処女だったとは、うれしい限りだ」
「今朝?……そんな! あれって、夢じゃなかったの!?……」
「わたし、そんなの知らない……いつ? わたし、何をされたの!?」
「そして、ビシェットとしてデビューするお前たちのために、今夜は特にそのような趣味の方々にお集まりいただいたのだ。
 生娘の扱いには慣れておられる皆様だから、どのお客様だったとしても初心なお前たちを使いこなしてくださっただろうが、それにしても選りにも選ってあの方に当たるとは……
まあいい、鉄は熱いうちに打てという、お客様のどのような要求にもビシェットは応えねばならぬのだから、よい勉強となるだろうよ」
「それじゃ、なにもかも最初から………」

「さて、ご理解いただけたところで、そろそろお客様もお待ちかねだろう。
サムソン、ゴリアテ、そろそろお二人をお客様のところまでご案内しなさい」
「ま、待って、ウイリアムさん、お願いッ!」
「わたしたち、本当に何も知らなかったんです!
他の事だったら、何でも、どんなに恥ずかしい事でもしますから、それだけは!」
「フッフッフ……今更そんな子供みたいなことをおっしゃってはいけませんね。
そんなことを言われても全てはもう遅いのですから、二人とも覚悟をお決めなさい。
もしそれが難しいのなら……そう、最後に良いことを教えて差し上げましょう。
これからの事はさっきの芝居の続きだと思って、それを演じれば良いのですよ。
お前たちとお客様は、奴隷に売られた外つ国の姫君たちとそのご主人様、ご主人様に夜伽を命じられてどんな辱めを受けようと、それは芝居の中で姫君たちの身に起こった事なのだと思えば何でもないでしょう?」
「何でもないなんて、ヒドイッ! そんなわけないじゃない!」
「イヤよ、イヤッ! アレってとっても痛いって聞いたもの」
「だいじょうぶ、あなたにそんなこと、絶対させるもんですか!」
「アア、パット、わたし怖いッ!」
「イザベル、泣かないで、あたしがきっとあなたを守ってあげるわ」
「さあ、姫君たち、次の幕も上がりますれば、どうぞ舞台へお急ぎを」
「おい、おまえたち、さっさと来るんだ!」
「い、痛い! なにをするのッ!」
「イヤ…来ないで…連れて行かないで……イヤァァァァッ!!」
「それでは、またのちほど……お二人が15歳となられた日の記念にどんな演技を…いや、艶戯と申した方が相応しいでしょうか…見せていただけるか楽しみにしております。
とは言っても、初めてのお客様があのブルート卿では、どこまで持ちますでしょうか……
フッフッフ……」


【旧名劇お絵描き掲示板No.363 by Tak】

 サムソンたちに二の腕をきつく掴まれ、半裸のまま引きずられるように廊下をエスコートされていく少女たちの姿は、まさしく、初めての夜伽に怯える乙女たちが黒人奴隷によってご主人様の寝所へ引き出されていくアラビアンナイトの一場面そのものと言えたでしょう。
 そんな素足の少女たちのたどる道筋には、まるで教会のバージンロードのように真っ赤な絨毯が敷かれていました。それは、永遠の愛を誓うためにのみ赴くべきその上を一夜限りの仮初の花嫁に歩ませる皮肉を嘲笑っているようでもあり、また、逃れようも無くこの道程の果てに待っている、汚れなき純潔を紅の花より赤く染められ散っていく、初花たちの運命を象徴しているようでもありました。


[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]