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夏の嵐のように 3

〜 夏の嵐のように 3 〜

【 秘密の約束 】

 一瞬、時が止まったかのように思えたその静寂を破ったのは、ラスカルでした。
二人がどうすればいいのか迷っている最中、アリスの後ろから出てきたラスカルは、ドアの
前に置いてあった洗濯かごに近づいて行って匂いを嗅ぐと、かごの中を探って何か白っぽい
ものを引っ張り出そうとしています。
それを見たアリスはドキッとしました。ラスカルが引っ張り出そうとしていたのは、少女の
ドロワーズだったのです。
ラスカルに失禁の跡を嗅がれた感触がいまだ股間に生々しかったアリスは、さっき洗い桶に
尻餅をついた時にも、自分でも気づかない内におもらしをしてしまっていたのではないか、
その匂いがドロワーズに染み付いていて、ラスカルが鋭い嗅覚で嗅ぎ当てたのではないか、
と思ってしまいます。
もし本当にそうだったなら、絶対に自分の手で取り戻さないといけません。そうしないと、
スターリングがそれをラスカルから取り返してくれるに決まっているからです。
粗相をしてしまった自分の下穿きをボーイフレンドに手にされるなんて、女の子にはとても
耐えられないことでした。

「ダ、ダメーッ! それ、取っちゃダメーッ!!」
 頭にカーっと血がのぼったアリスは自分が今どんな格好なのかも忘れ、ドアの陰から跳び
出してかごの上に覆いかぶさり、その勢いに驚いたラスカルは逃げていきました。
「ア、アリス!?」
 いきなり目の前にアリスが裸のまま跳び出して来て、スターリングはビックリしてしまい
ます。
「アッ・・・あのッ、わたし・・・ちがうの、これはね・・・・・・
ご、ごめんなさいッ!」
 顔を上げてスターリングと目が合ったアリスは、自分がなぜこんなことをしたのかを説明
しなければと焦りますが、まさかおもらしの件を正直に言うわけにもいかず、かといって、
急にうまい言い訳も思い浮かびません。
こんな場合、気の弱い女の子なら恥ずかしさのあまり身体がすくんで動けなくなり泣き出す
のが普通で、そもそもそんな姿で男の子の前に跳び出したりしないのでしょうが、アリスは
ちょっと違っていたようで、とにかく、またドアの後ろに隠れようと身を翻します。
それでもアリスもやはり女の子、男の子に裸を見られて平気なはずもなく、気が急くあまり
足をもつれさせてしまいました。

「アリス、危ない!」
 今にも背中から後ろへ倒れようとする少女を助けようと、スターリングは駆寄りますが、
相手がバランスを取ろうとして両腕を広げていたので、手を取ることができません。
そうなるとアリスの身体を支えるためには腋か腰を掴むしかありませんでしたが、服を着て
いるならばともかく、この状態でそんなことをしたら少女の乳房やお尻に直接触れてしまい
そうで、スターリングは伸ばした手の持って行き所を失ってしまいます。
しかもこの時のアリスの姿勢では乳房が丸見えで、目のやり場にも困って思わず視線を脇に
そらしたスターリングは、足元のかごにつまずいたはずみにつんのめり、そのまま二人は、
もつれ合うようにして床に倒れていきました。

「キャンッ! イ、イッターイ!」
 床にお尻をしたたかに打ったのと同時に、下腹部に重たい物がドンッとぶつかってきて、
二重の衝撃に身体を仰け反らせたアリスは、その痛みに思わず股をギュッと締めます。
「ウワッ!」
 かごにつまずいて身体を宙に浮かせたスターリングは両手を前に伸ばしきっていたために
身を庇うことができず、顔から床に落ちていくのを覚悟して、息を詰めぎゅっと目を閉じて
奥歯を噛みしめました。しかし、確かに衝撃はあったものの固い床に激突したような痛みは
襲って来ず、その代わりに顔が弾力のある柔らかい物にめり込んでいくような感触があり、
首筋や両肩には何かがのしかかってきてまわりを見ることができません。
 自分の顔の下にあるこの柔らかい物は何だろうと思ったスターリングは、詰めていた息を
吐き出し、腕を引いてグッと身を起します。
 下腹部に、フーッと息を吹きかけられ、急に動き出した股間の物に、閉じていた太ももを
開かせられて、アリスは『キャッ』と叫びました。
 その声にひかれて顔を上げたスターリングと、ひじを突いて上半身を持ち上げ、下の方を
見たアリスとは、お互いに口を『アッ』と開かせたまま視線と視線を絡ませ合い、それから
二人が今の自分たちの状況を把握するまでには、数瞬を要しました。

『それじゃ、今、ぼくが顔を付けていたのは、アリスの!?』
そう気づいたスターリングは、気が動転するあまり気恥ずかしさも忘れて、それを確かめず
にはおけませんでした。
『ヤダッ! スターリングったら、スターリングったら、わたしのアソコを!!』
 ゆっくり視線を下げていく少年が何をしようとしているのか、それを察したアリスもまた
冷静でありえたはずもなく、このままではボーイフレンドに女の子の秘密の部分を見られて
しまうし、かといってこの体勢では逃げることもできないとあわてた少女がとっさに取った
行動は、後になって思い返してみても何故そんなことをしてしまったのか分からず、顔から
火が出る思いを味わうことになるのですが、この時のアリスは必死だったのです。

「ダ、ダメーーッ!!」
「ワッ!」
 不意にアリスの両脚が首に巻付いてきて頭を後ろから押され、顔を柔肉に圧し付けられた
スターリングには初め何が起きたのか分かりませんでしたが、つい今しがた嗅いだばかりの
微かにアンモニア臭の混じる甘酸っぱい匂いから、そこがアリスの下腹部であるのは間違え
ようもありませんでした。
『アリス、なぜこんなことを!?』
しかし、鼻も口も少女の柔肉に密着させられて、息苦しさに襲われてきた少年には、そんな
ことを考えている余裕もなくなっていきます。
「く、苦しいよ、アリス」
少女の股間にくぐもる少年の声は、けれど、相手の耳に届かず、スターリングはアリスから
逃れようと床に腕を突っ張って身体を持ち上げてみますが、パニックを起したようになった
少女は、自分の秘部を見られたくない一心で絡めた両脚にますます力を込めていき、決して
離れません。

 このままでは本当に息が詰まってしまうと、切羽詰ってきたスターリングは、仕方なく、
アリスの身体に手をかけて引き剥がそうとしますが、そうさせたくない少女は身をよじって
少年の手を滑らせていきます。
 そうしている内に手に引っかかる部分を探り当てた少年は、その柔らかい膨らみを両手で
思い切り掴んでそこを手懸りにすると、ここを先途とばかり頭を激しく揺さぶって、少女の
身体を引き離しにかかりました。
「イッ、痛い! スターリング、そこ、痛いの! そんなにしたら、つぶれちゃうッ!
イヤァァンッ! スターリングのお顔が、アソコにッ!
アアン、ダメェェッ! そんなトコにキスしないでェェッ!」
 いくら大好きなスターリングにとはいえ、男の子に未熟な乳房を鷲掴みにされた上、密着
した顔に股間を擦られて、アリスは苦痛と羞恥に苛まれていました。
けれど、スターリングにはそんなつもりも知識も無かったにしろ、偶然にも秘部にクンニを
受ける形となったアリスは、少女自身の知っている言葉ではいまだ言い表すことのできない
情動に翻弄されていきます。
そうして、その身を固くしていた羞恥心が肉体に初めて芽生えた性感に取って代わられるに
つれて、少女の身体から力が抜けていきました。

 ようやく締め付けていたアリスの脚を振りほどき、両手を床につけて、窒息しかけて胸を
喘がせていたスターリングは、まだ耳なりがし、目が汗ににじんで、眼前に見る白いものも
ぼんやりと翳んでいましたが、目蓋をしばたたかせている内に目に映っていたものの輪郭が
しだいに鮮明になっていきます。
 それは大好きな女の子、アリスの白い裸体でした。胸にこそ手をあてがっていたものの、
力なく横たわる少女の太ももは大きく開かれたまま、スターリングたち男の子とは根本的に
異なっている女の子の部分が隠されることなく露わになっていました。
 アリスの真っ白な下腹には、もう何年も前、まだ中学に入りたてだったフローラと一緒に
風呂に入ったおりに股間をうっすらと陰らすものに気がついて、それは何かと訊ねた姉に、
はにかみながらもどこか誇らしそうに『これは、わたしが大人になった印なの』と言われ、
それが幼心にとても羨ましく思え、早く自分にも欲しいと待ち望んでようやく生え始めた、
とはいえ、まだ産毛と大差ない恥毛が絹のようにきらめいています。
 その下の内ももの付け根はぷっくりといかにも柔らかそうに盛りあがり、その形や少年が
そこに顔を埋めた時に嗅いだ甘酸っぱい匂いが、イースターに出される干し葡萄入りの甘い
ホットクロスバンを連想させますが、少女のそれには十字ではなく薄く朱を刷かれた一筋の
裂け目があります。
すっと引かれたその筋は先ほど圧し付けられた少年の唇によって歪み、わずかに口を開けた
裂け目から、ねっとりと濡れた生々しい肉色の花弁が垣間見えていました。
アリスのような活発な少女には似つかわしくない、暗く湿った所に這うナメクジが跡に残す
粘液のようなそのヌラヌラとした質感には、かすかな嫌悪を催させると同時に、それ以上に
少年を惹きつけて止まない何物かがあり、スターリングは股の付け根にツキンと痛みが走る
のを感じました。

 生まれて初めて間近に見た少女の性器に、少年の胸はドキドキと早鐘のように打ち震え、
見てはいけない物を見ているという罪悪感がわずかに脳裏をかすめますが、スターリングは
息をするのも忘れて、まるで魅せられたようにそこから目を離すことができませんでした。
 そんな少年を現実に戻したのは、ようやく耳鳴りが治まって聞こえてきた、低くしゃくり
あげる少女の泣き声でした。
「ア、アリス?・・・
ごめんよ、アリス、ぼく、無我夢中で気づかなかったんだけど、きっと君に痛い思いをさせ
ちゃったんだね?」
 けれど、アリスはしゃくりあげ続けてスターリングに答えてくれず、途方にくれた少年に
とっては、お隣の小さなマーサが転んだ時のようにわんわん泣きじゃくられた方が、いっそ
気が楽だったかもしれません。
とても長く感じられた気詰まりな何十秒かの後、ようやく開いた少女の口から出た言葉は、
少年を一層困惑させるものでした。

「わ、わたし・・・わたしを、スターリングの、オヨメサンに、してくれる?」
「アリス?」
「だって・・・だって、わたし、スターリングに、裸、見られちゃったし・・・
お胸も、それに女の子の大事なとこにだって・・・キスされちゃったんだもの・・・
こういうの、結婚の約束もしてないのに、しちゃいけないって、おばあさまが言ってたわ」
『だけど』と言いかけたスターリングでしたが、涙をためた瞳で真剣に自分を見つめている
少女を、これ以上悲しませることはできませんでした。
「分かったよ、アリス、そうしようね」
「ほんと、に?・・・」
「うん、約束する・・・
でも、この話はまだしばらく、二人だけの秘密にしようよ
だって、ぼくたちみたいな子供が結婚するなんて言っても、誰も本気になんかしてくれない
と思うんだ
アリスも、そう思わないかい?
だから、そう、ぼくたちが、せめてハイスクールを卒業するくらいの歳になるまで、家族に
言うの、やめておこうよ、ね、アリス」
「いいわ、スターリングがそう言うんなら、わたしもそうする・・・
わたしたち、もう、本物のコイビト同士なんだわ!」

 アリスは、それまでの泣き顔が無かったかのように、とても嬉しそうに顔を輝かせます。
そんなアリスを見て、スターリングは、ホッとしたと同時に『女の子って不思議だなあ』と
思います。
 スターリングにとってアリスがガールフレンドになってくれたことはもちろん嬉しいし、
これからもずっと仲良しでいたいとは思っていましたが、ガールフレンドが恋人と呼び名を
変えても、これまでと同じで二人の関係に変化があるとは思えませんでしたし、ましてや、
結婚のことなどまるで実感がなかったのですから。
少年は知らなかったのです、女の子というものが男の子より一足早く大人になることを。

 恋を夢見る少女アリスは、スターリングに自分を恋人として扱ってもらいたいと甘えます。
それが、どんな出来事を巻き起こすかも知らずに。

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