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旅の始まり 〜ジャッキーの日記より〜

〜 旅の始まり、ジャッキーの日記より 〜

 目を覚ました時、あたしはしばらくの間、自分がどこにいるのか分かりませんでした。
でも、やがて夕べのことを思い出しました。ソロ号に乗り遅れたあたしは、テンボと一緒にこの海辺の別荘にやって来たのです。
 そして、お父さんたちに連絡をとってもらおうと、アイアランド少佐を頼って家に行ったのですが、あいにく少佐はナイロビに出かけて留守で、しかたなく電報を打つことができる村の郵便局が開くまで待つことになりました。
 そこで、せっかく海辺に来たのですから、待つ間あたしは海で泳ぐことにしたのです。

「たしか、衣装箱に入れて置いたはずなんだけど……
あっ、あった!
う〜ん……水着、こんなに小さかったかしら?
でも、ブラのひもを調節すれば、なんとか着られるかな?」
「んん……
あ〜ん、ひもが短すぎて、なかなか縛れない〜
・・・ふぅ、やっと結べたわ。
えへ、あたしの胸、去年よりこんなに大きくなったんだ」
「今度は下ね。こっちは調節できないけど、大丈夫かな?
よいしょっと・・・は、入った!
ん〜〜〜、きつ〜い!
あ〜ん、おしりも大きくなってるぅ〜」
「アッ、やだ、これじゃ、おしりが丸見えになっちゃう!
すそを直さなきゃ・・・アンッ、今度は前が!
ちょっと戻して・・・これで大丈夫よね?
季節外れだから浜辺には人もいないし、もし後から誰か来ても、ウィンドブレーカーを肩にかければ……
あ〜〜! これもこんなに小さくなってる!
……まあ、いいわ」

 サイズの合わなくなった、いかにも子どもっぽいビキニを着けたあたしは少し恥ずかしいかなと思いながらも、久しぶりに海で泳いで楽しみました。
そして、泳ぎ終わる頃には自分がどんな格好でいるか、すっかり忘れてしまいました。

「ん〜〜、気持ちいい〜!
でも、ちょっと冷えちゃったから、もう上がろうかな?」
「アハ、砂の上、あったかーい。
少しここで休んだら、もう一泳ぎしよーっと」
「お嬢さ〜ん」
「あっ、テンボ〜、ここよ〜」
「ああ、お嬢さん、こんな所にいらした…んです…か……
お嬢さん、あの……」
「ねぇ、テンボも一緒に泳がない?」
「いえ、私は、その……いいです。
それに、そろそろ村に行かないと……」
「あ、もうそんな時間? じゃ、このまま行きましょ?」
「あ、あの……お嬢さん……そのままで行くんですか?」
「ええ、着替えに戻るより、早く村に着けるでしょ?
あ、大丈夫、上に着るウィンドブレーカーを持ってきてるから」
「そう……ですね……ではお嬢さん、それを着て出かけましょう」

 この時、テンボは黒い顔を赤くして、なぜかあたしの方を真っ直ぐ見ようとはしませんでした。
後から気がついたのですが、あたしの水着は前にバザールで、母がもっと良いのにしなさいと言うのに、真っ赤な色が気に入って、無理に買ってもらった物だったのです。
でも、子供用の安物だったので裏地も付いていなくて、あれから身体の成長したあたしにはちょっと困ったことが起きていたようです。
きつきつのブラの布地に擦られて、固くなった胸の先が薄い生地をツンと下から押し上げているのが見えていたようですし、泳いでいる内にパンツの縁がよれて食い込み、普段決して陽の目に晒されることのない部分も見えていたようです。
 あの時、テンボはさぞかし目のやり場に困ったと思います。
そして、この事が後でとんでもない事件になっていったのです。

 ちょうど同じ頃、海を見下ろす近くの崖の上に二人の男がいました。
「おい、見ろよ」
「お、ありゃあ、保護官の娘じゃねぇか。
ガキだと思ってたが、なかなかいい身体してやがる。
もうちょっと歳がいってりゃ、モノにしてやるんだがなぁ」
「バカ、密猟ならともかく、そんなことしてみろ、臭いメシを何年食わされることか。
それより、その隣の男だ」
「あっ、あいつ、テンボの野郎だ!
さっそく、とっ捕まえましょうぜ!」
「まあ、待て、人の多いここらで騒ぎを起こすのはまずい。
そこでだ、あの娘を見て、いいことを思いついたぜ」
「…………と、こういう寸法だ」
「へっへっへ、さすがアニキ、悪知恵が働きやすね」
「バカヤロー、頭が回ると言え、頭が!
それじゃあ、あいつらが行く前に、村に先回りするぞ」
「へ〜い」

 そんな事があったとは知らず、あたしたちは村の入口までやってきました。
「えーと……あっ、あれが郵便局ね?
さあ、テンボ、行きましょう?」
「ちょっと待って! お嬢さん、あれを」
「えっ・・・アッ! あの二人!」
「そう、わたしを追いかけている密猟者です」
「一緒に話してるのは……警官だわ!」
「変ですね……林に入って、様子を見てみましょう」

 そうこうしていると、例の二人組と話し終わった警官が村人たちを集めだしました。
「みんなぁ! よーく聞いてくれぇ!
実はこの近辺で、誘拐事件が持ち上がっとるんだが、今、有力な情報が入った!
犯人は若いアフリカ人で、名前をテンボという。
誘拐されたのはジャッキーという白人の女の子だ!
しかも、こいつはその子を裸同然の、あられもない格好をさせて連れ歩いとるそうだぁ!」
「おおおぉぉ!!」
「このヘ○タイ誘拐犯を見かけたら、わしのところに連絡するように!」

 あまりの事に、あたしたちはびっくりしてしまいました。
「あの警官ったら、なんて事、言ってるの!?
あたし、誤解だって、いってくる!」
「お嬢さん、やめてください!
今、そんな格好のまま出て行ったら、それこそ大騒ぎに」
「あっ……」
 テンボにそう言われて自分の姿をあらためて見ると、肩に羽織ったウィンドブレーカーは背が伸びたあたしにはおへそが見えてしまうほど小さく、水着も、あまりにも小さすぎて、どちらも身体を覆う役にはあまり立っていません。裸同然の格好、と言われれば、たしかにそのとおりでした。
「とにかく、一度別荘に帰りましょう。
そして、これからどうしたらいいか考えましょう」
「そ、そうね、テンボ」

 こうしてあたしたちは村で電報を打つことをあきらめ、別荘に戻ることにしたのですが、その途中、もう一つ事件、というより厄介事を背負い込むことになりました。
「キャッ!」
「うわ!」
「痛ったぁ〜」
「ご、ごめんなさい!」
「あっ、ミッキー!」
「えっ? あ〜〜! ジャッキー!
ウワァ! すげぇ!!」
「エッ?」
「ジャッキーって、いつもは男の子みたいな格好してるから気づかなかったけど、オッパイ大っきいんだな〜!」
「エエッ!? アッ!!」

 そうなんです。人の目を避けながら別荘にもどる途中、偶然に同じ場所に遊びに来ていたミッキーと鉢合せにぶつかってしまい、倒れた拍子に首に結んだひもに引っ張られてブラがずり上がっちゃって、ピンク色をした先まで、あたしの胸、見られちゃったんです。
あわてて、あたしは手で胸を隠しました。
「あ〜あ、もう少し見たかったのに……
エヘヘヘ、でも、こっちはもぉ〜っと、すごいやぁ!
へえぇぇ〜〜、女の子って、こうなってるのかぁ〜〜」
「な、なに!?」
「パックリ割れてるって、本当なんだな〜」
「エエ〜〜ッ?! ど、どこ見てるのよ!!!」
 
 ミッキーの視線を追って、ビキニのパンツを見ると……薄い生地が下にいくほどよれて、細ひものようになって食い込み……『パックリ割れた』あたしのアソコに、潜り込んで……まるで初めからそこは何にも覆われていなかったように、『女の子』の形がくっきりと見て取れました。
「イヤァ!、見ちゃダメッ!!」
胸を隠していたのも忘れて両手で下を押えると、ミッキーがまた嬉しそうな声を上げます。
「アハハハハ、ジャッキー、また、オッパイ見えてるぞ」
「こらこら、坊ちゃん、女の子をからかうのは、男らしい事ではありませんよ。
さあ、お嬢さんも、その……服を直して、出発しましょう」

 これまでも、ミッキーにはよくスカートをめくられたりした事はありましたが、女の子の大事なところを全部、ミッキーなんかに見られるなんて、まったくこの日はあたしの人生で最悪の日でした。

 そんなアクシデントがあった後、あたしたちは別荘に帰ってから、これからどうするかを決めました。
 テンボは密猟の証拠を信用のおける動物保護官に渡すため、あたしはマーフィーを自然に帰すために、一緒にサバンナを旅することになったのです。
 ただ、困ったことが一つ…いえ、一人かな?
ミッキーも一緒に行くと言い張るのです。
マーフィーと少しでも長く一緒にいたい、と言ってますが、今日のことを考えると、理由は他にもありそうで……前途多難な旅になりそうです。


2003年1月20日、旧名劇お絵描き掲示板、jack様の投稿作品に寄せて
2008年9月 7日、改稿

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